一流大の不正入学事件で露呈したアメリカの闇 富裕層でないと一流大学に進学しにくい
もちろん、保護者の所得にかかわらず、実力で一流大学に進学する学生は多い。それでも、一流大学に進む学生に富裕層の子息が多いという事実は変わらない。スタンフォード大学のラジ・チェティ教授らの調査によれば、アイビー・リーグなどの有名私立大学では、学生の約15%が所得階層で上位1%の家庭の子息である。これは、所得階層で下位50%の家庭の子息が占める割合(約14%)を、やや上回る水準だ。
本来であれば、一流大学への進学によって大きな恩恵を受けられるのは、富裕層というよりも、貧しい家庭の子息であるはずだ。一般にアメリカでは、親の所得階層が子息に引き継がれる傾向が強い。一流大学への進学は、貧しい家庭の子息に格差の固定化から抜け出す足がかりを与えてくれる。
一流大進学は貧困を抜け出す足がかりに
前述のチェティ教授らの調査によれば、有名私立大学を卒業した学生は、親の所得階層に関係なく、同じ程度の高さの所得階層へと進んでいる。言い換えれば、貧しい家庭から進学した学生ほど、高い所得階層に移動する度合いは大きい。
貧困から抜け出す足がかりになるという点では、一流大学の威力は明らかである。有名私立大学の場合には、所得下位20%の保護者を持つ学生の55%が、卒業後に所得上位20%の所得階層に到達している。これを二年制の公立大学であるコミュニティ・カレッジと比較すると、カリフォルニア州のグレンデール・カレッジの場合には、所得下位20%から上位20%に進む割合は、20%強にとどまっている。
問題は、すでに述べたように、一流大学には貧しい保護者を持つ学生が少ない点にある。実際に、下位20%の家庭から上位20%に達する学生が学生全体に占める割合を比較すると、有名私立大学の水準(約2%)は、グレンデール・カレッジ(約7%)を下回る。
そのコミュニティ・カレッジでも、2000年代には所得下位20%の保護者を持つ学生の割合が、急速に低下している。背景には、財政難で州政府による学費の補助などが手薄になったことが指摘されている。貧しい家庭に育った学生にとって、貧困から抜け出す足がかりになるはずの大学教育は、ますます狭き門になっているようだ。
裕福な著名人による不正入学事件は、富裕層に有利なアメリカの一流大学の現実を、よりグロテスクな形で浮き彫りにした。格差の固定化は、エリート層への不満の高まりを通じ、トランプ大統領の誕生を生んだ要因になったともいわれる。どの入り口から入るにせよ、「金で買える大学」との醜悪な印象は、さらにアメリカの分断を深めかねない。
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