トヨタの春闘が「異例ずくめ」だったのはなぜか 賞与は夏のみ回答、サイトで交渉過程公開も

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今年の春闘では社内の格差是正を求める組合の要求に経営はしっかりと回答した。同一労働同一賃金の流れも念頭に、期間従業員やパートタイマーといった非正規社員についても正規社員に準じる形での賃上げ、シニアや在籍1年未満の期間従業員への食費補助手当の導入、期間従業員から正社員に登用された人の賃金是正を今後進める。

また、これまでは事務系・技術系では在宅勤務制度や配偶者の転勤に伴って辞めた場合に後に復職できる制度があったが、 この適用を業務職にも拡大する。介護や障がい者のサポートを充実させるための相談窓口も設置し、社員が力を発揮しやすい環境を整備していく。

「トヨタイムズ」でリアルな交渉伝える

賃上げにフォーカスが当たりがちな春闘だが、それ以外の領域にも相当の時間を割いて議論をしていることをトヨタは自社サイトでアピールした。今年1月、オウンドメディアとして立ち上げた「トヨタイムズ」では、今回の交渉過程やポイントを、労使交渉前から回答日まで6回にわたって掲載。一定の編集はなされているが、労使双方の発言を動画で見ることができる。

経営側の会見冒頭では、13日の労使協議会の模様を映した動画が流された(記者撮影)

この意図について、上田執行役員は「トヨタではこういう話し合いをしているということを、社員だけではなく、他社の労使の方にもご理解いただけるよう公表している」と話す。賃金に限定しない幅広い議論を開示することで、ベアの「相場役」でなくなっても、労使交渉の「質の改善」では日本をリードしていきたいとの思いが透けてみえる 。

発信する内容は経営寄りになることはないのか。トヨタ労組の西野執行委員長は「掲載する中身は確認させてもらっているが、会社の主張が特段強く出ているとか、組合の主張が切り取られていることはない」とする。むしろ、「組合員からも映像で発信してほしいとの声は以前からあった。組合員も動画を見て、リアルに感じてもらえたのはでないか」と会社側の取り組みを評価する。

回答日の夜、豊田社長の緊急インタビューがトヨタイムズに掲載された。「今回が組合と会社の話し合いの再出発になるのであれば、そこはあえて自分が出るところだと判断して、行司役を降りた」と明かした。行司役を降り、「決める」という立場になってでも、変革を促す一歩にしたいとの強い思いが勝ったともいえる。豊田社長はかねて「これまでの延長線上にトヨタの未来はない」と発言してきた。トップが抱く危機感を単体で約7万人、連結で約35万人いる従業員にどう浸透させ、変革につなげるか。今年6月で就任10年を迎える豊田社長は重い課題を背負っている。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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