トヨタの春闘が「異例ずくめ」だったのはなぜか 賞与は夏のみ回答、サイトで交渉過程公開も

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ベースアップや定期昇給、手当などを含めた平均昇給額は組合員1人当たり月額1万0700円で決着した。組合の要求額である1万2000円を1300円、昨年実績を1000円、それぞれ下回った。ベースアップは6年連続の実施となるが、具体額は非公表だ。ベアの実額の非公表は昨年と同様だが、今年の春闘では組合の要求額も非開示となった。これまではトヨタがベアの「相場役」を務めていたが、結果としてトヨタのベアの水準が天井となって、大手企業と中小企業の格差是正が進まないとの問題意識を労使で共有した結果だ。

今年の春闘でベアを非公表とする動きはマツダにも拡大。定期昇給やベアを含め組合員1人当たり月額9000円を要求し、満額回答を得た。自動車総連もベアの獲得目標を総連としては掲げず、月額の目標賃金の獲得を重視する方針に転換した。

トヨタはベアを非公表とする交渉方式では労使が一致したが、賃金改善については考え方の隔たりが大きかった。会社側は「賃金がそもそも相当高いレベルにある中で、競争力の観点からも、全員一律に賃金を改善する必要性は、これからもよく考えないといけない」と主張。「全員一律の慣習を打破し、成長し続けている人に報いる枠組み」に転換する必要性を強調した。また、賃金のみならず、賞与でも同様のスタンスを取る考え方を示した。

一方の組合は、「1人も欠けることなく、みんなで頑張っていきたい」との姿勢を崩さず、あくまでも「全員一律の引き上げ」にこだわった。その結果、交渉決着は回答日当日の早朝までもつれ込んだ。

「全員一律」打破に専門委員会立ち上げへ

組合員1人当たり月額1万0700円について、会社側は「秋に消費増税を控える中、生産性の向上、競争力の現状、組合員の意欲や頑張りを踏まえて総合的に判断した」(総務・人事本部の桑田正規副本部長)とする。

トヨタ自動車労働組合の西野勝義執行委員長(記者撮影)

トヨタ自動車労働組合の西野勝義執行委員長は「(われわれが)こだわった全員への配分も入っており、受け止めは下向きになるものではない」と評価した。今後、労使は専門委員会を立ち上げ、社員の意欲や成果をより重視する賃金制度への見直しを目指して議論を進める方針だ。上田執行役員は「課題があることは労使双方で認識ができた。スピードを上げて、双方で考えていく」と話す。

今後の課題は労使双方が納得いく社員の評価方法を作り上げられるかだ。トヨタの場合、社員は生産現場で働く技能系、事務系・技術系(総合職)、業務職(一般職)に大別され、働き方も異なる。職種の実情に合わせてきめ細かく評価方法を作るのは簡単ではない。議論の枠組みが新たにできることは前進といえるが、社員のモチベーションを高める制度をどう作っていくか、労使ともに難題に向き合うことになりそうだ。

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