トヨタの春闘が「異例ずくめ」だったのはなぜか 賞与は夏のみ回答、サイトで交渉過程公開も
「皆さんが『仕事のやり方を変える』ことができなければ、トヨタは終焉を迎えることになると思う。『生きるか死ぬかの闘い』というのは、そういうことである」――。
トヨタ自動車の豊田章男社長は3月13日、労使交渉の回答に先立って、厳しい言葉を発した。トヨタグループの経営の基本理念である「豊田綱領」を現在の会社を取り巻く環境と関連付けて解説。その精神を「今のトヨタは、ここにいる私たち全員は忘れかけているのではないか」と問い、原点に立ち返る必要性を強調した。
CASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)の荒波にもまれる自動車業界。豊田社長は「100年に1度の大変革期」に強い危機感を抱き、昨年1月、「自動車会社からモビリティカンパニーに変わること」を宣言した。社員にも変革を促してきたものの、危機感は十分に共有されていなかった。今年の春闘では、改革に突き進みたい豊田社長と、なかなか意識や行動を変えられないマネジメント層や社員との温度差が浮き彫りになった。
「異例」の夏季分のみの賞与回答
今年のトヨタの労使交渉の回答で異例だったのは何といっても賞与だ。組合は6.7カ月(昨年実績は6.6カ月で満額回答)を目標に掲げたが、回答が出されたのは夏のみだった。夏の賞与として組合員1人当たり平均120万円と回答し、冬の賞与については継続協議とした。
トヨタ自動車労働組合によると、120万円は約3.2カ月分に当たる。トヨタが賞与を通年で回答する方式を導入した1969年以降、通年で回答しなかったのは今回が初めてだ。その理由として経営は「トヨタのおかれている状況についての認識の甘さ」を指摘し、現時点で年間の賞与を回答することは「時期尚早」とした。
この点について、上田達郎執行役員は会見で「先行きが不透明ということではまったくなく、トップの思いに、会社、組合双方がまだまだ追いついていなかった」と説明した。豊田社長は3月6日の交渉で、「労使間で危機感の認識に大きな溝がある。今回ほど距離感を感じたことはない」とも指摘。これまでの労使交渉では豊田社長は経営側ではなく、あくまでも「行司」役に徹してきたが、今回は労使双方に苦言を呈するという異例の展開となった。
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