気仙沼の復興事業、被災者宅に「レッドゾーン」 土地区画整理で「重要事項」の説明なく換地

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東日本大震災の際、春日さんや小原さんの自宅は、近くの川をさかのぼってきた津波で床上浸水の被害を受けた。その後、春日さんは1000万円以上も投じて自宅および敷地内の工場を修繕し、一息ついたところに地盤のかさ上げを伴う区画整理事業の情報が飛び込んできた。

震災から8年がたち、住む人が少なくなった気仙沼市の仮設住宅(記者撮影)

春日さんは修繕した自宅の取り壊しを迫られ、かさ上げ工事が終了するまで、3年以上にわたるアパート暮らしを余儀なくされた。かさ上げ工事のために、自身が経営していた水産加工工場は廃業を迫られた。

一方の小原さんは震災直後に仮設住宅に入居するとともに、被災した自宅の修繕を目指したが、同じく区画整理事業のために自宅の解体を余儀なくされた。小原さんは現在、老朽化の著しい仮設住宅で暮らし続けている。

被災者に寄り添う姿勢が必要

このように、土地のかさ上げを伴う区画整理事業は、被災した住民に多大な負担を及ぼしながら進められてきた。被災住民側も、防災目的の盛り土かさ上げ工事の重要性を認め、土地区画整理事業に協力してきた。

その反面、住民への対応は十分と言えるものではなかった。その典型例が、レッドゾーンに指定されていた事実を伝えずに、土地を引き渡したことだ。通常の不動産売買ならば土砂災害特別警戒区域の指定は重要事項に該当する。

しかし、気仙沼市や区画整理事業の委託を受けた都市再生機構の担当者は元々の土地への換地処分でもあることから、本人たちは知っていると思い込み、レッドゾーンの事実を伝えなかった。がけ地付近での建築制限についても説明をしなかった。

震災復興政策に詳しい塩崎賢明・神戸大学名誉教授は、「不動産取引の法の趣旨に照らせば、改めて取得する土地が土砂災害特別警戒区域のような特別な条件にある場合には、取得させる側が重要事項として説明すべきだ。ましてや市民生活の擁護者、公の立場にある市役所が事業者であることから、民間の宅地建物取引業者以上にきちんと説明してしかるべきだ」と指摘する。

気仙沼市内では、土砂災害警戒区域に建設された仮設住宅が大雨の被害を受け、住民が一時避難を強いられた事例もある。気仙沼市は当時、そうした危険な場所での立地について、用地不足を理由にしたが、十分に調べずに建設された疑いも持たれている。今回もそうした教訓が生かされているとは言いがたい。

復興事業が終わりに近づいている中、今もなお平穏な暮らしを取り戻すことができない被災者が少なからずいる。その理由の1つに、事業の情報が十分に伝えられていないことが挙げられる。マンパワー不足で十分に手が回らない事情はあるにしても、事業を推進する側には今まで以上に被災者一人ひとりに寄り添い、ともに解決を図る姿勢が求められている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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