二階氏の「小池知事支援宣言」にざわめく自民党 幹事長の独断専行を安倍官邸が静観する訳

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細野氏の二階派入会により、同氏が当選してきた衆院静岡5区での自民公認をめぐり同派と岸田派の派閥抗争が再燃した。二階派の田畑毅氏の議員辞職に伴い、同区の自民党支部長を務める岸田派元議員の繰り上げ当選につながったが、それは「首相官邸が主導した」(二階派幹部)とみられたため、「二階氏は怒り心頭だった」(同)とされる。保守分裂選挙に追い込まれた4月7日投開票の福岡県知事選で、首相の盟友の麻生太郎副総理兼財務相が二階氏の意向を無視する形で新人候補の自民推薦を主導したことも、二階氏の苛立ちにつながったとみられている。

一連の二階氏の独断専行については、首相周辺だけでなく自民党幹部の間でも「いくら何でもやりすぎ」との不満が渦巻いている。このため、首相に近い党幹部からは「参院選後の人事で幹事長を代えるべきだ」との声も出ている。ただ、麻生、菅両氏とともに政権を支える二階氏の交代は安倍政権の基盤も揺るがしかねない。麻生、菅両氏と違い、安倍首相と二階氏は「戦略的互恵関係」(自民長老)とされるだけに「二階氏を切れば、すぐ反安倍に変身する」(同)とみる向きが少なくないからだ。

このため、首相が2021年9月までの残された任期を順調に全うするためには「剛腕の二階氏との連携は不可欠」とされるのが実情だ。もちろん、二階氏も「党の人事と資金」を握る幹事長職の続投に強い意欲と執着をにじませている。2月の自民党大会直後に安倍首相の「総裁4選」に言及してみせたのも、「『俺を外すな』とのサイン」(二階氏周辺)との見方が支配的だ。

「絶滅危惧種」と「風見鶏」の組み合わせ

二階氏は当選12回で80歳の長老議員。故田中角栄元首相を「政界の師」とし、自民復党後は、田中氏の手法にならい、資金力や政局における腕力で40人を超える大派閥の領袖になった叩き上げの実力者だ。政局の節目での手練手管の巧妙さは他の追随を許さず、安倍首相が畏敬を込めて「抜群の政治的技術」と評したように、自民党内では昔の実力者を彷彿とさせる“政界絶滅危惧種”との位置づけだ。

その一方で、小池氏も、したたかさでは二階氏に引けを取らない。日本新党を立ち上げて1993年に非自民連立政権の首相となった細川護煕氏の側近として、テレビ番組のニュースキャスターから政界入りした。細川氏、小沢一郎氏、小泉純一郎氏ら「時の実力者に寄り添う」ことで出世の道を歩み、女性として初めて自民党総裁選にも出馬した経歴を誇る。ただ、安倍首相との折り合いの悪さなどから第2次安倍政権では冷遇され、舛添要一都知事のスキャンダル辞職を受けて「崖から飛び降りる覚悟」で都知事選に出馬、圧勝したことで「政界最強の風見鶏」(自民幹部)とも呼ばれている。

二階氏が先手を打って来夏の都知事選での「小池氏支援」をぶち上げたのは、「小池氏に恩を売って、東京五輪を主催する都知事として、安倍政権に全面協力させる」(二階氏側近)との狙いからとされるが、人気失速に悩む小池氏にとっても「渡りに船」となったのは間違いない。東京五輪成功を長期政権のレガシー(政治的遺産)の1つとしたい安倍首相にとっても、「五輪直前の都知事交代による混乱は避けたいというのが本音」(側近)とされ、「政略的には首相と二階、小池両氏の利害は一致する」(自民長老)とみられている。

そうした中、「小池憎し」で固まる自民都連は、丸川珠代元五輪担当相や五輪金メダリストの鈴木大地スポーツ庁長官の都知事選擁立を模索しているが、二階氏は「いずれも小池氏に勝てる候補ではない」と判断しているようだ。今回の騒動に、「選挙が趣味」の小沢氏は5日、「野党としてもっと立派な候補者を立てたらいい」と対抗馬擁立に言及した。小沢氏の念頭にあるのは参院東京選挙区で抜群の集票力を誇る蓮舫氏(立憲民主党副代表)とみられるが、「二重国籍問題への批判もあって、小池氏に勝つのは難しい」(選挙アナリスト)との見方が多く、蓮舫氏自身も消極的とされる。

自民党ナンバー2の幹事長を続けたい二階氏と、都知事再選に意欲を示す小池氏は、安倍首相にとっても「どちらも敵に回したくない政治家」(官邸筋)であることは否定できない。このため、安倍首相が今回の二階発言をことさら静観するのは「超リアリスト(現実主義者)らしい対応」(細田派幹部)でもあるが、今後も二階氏の独断専行が続くようなら、参院選後に想定されている党・内閣人事で安倍首相が「人心一新」に踏み切る可能性も少なくない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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