微妙に「社会主義」に傾きゆくアメリカの葛藤 民主党には政府の役割拡大を訴える声
ところが2020年の大統領選挙では、「メディケア・フォー・オールに賛成しなければ、民主党の予備選挙には勝てない」とでもいうような雰囲気が漂っている。自身も大統領選挙への出馬を表明しているバーニー・サンダース上院議員が提案した法案の共同提案者には、カマラ・ハリス、エリザベス・ウォーレン、コリー・ブッカー、カーステン・ギリブランドといった大統領選挙への出馬を表明した議員が名を連ねている。
提案者であるサンダース議員の位置づけも、民主党の変化を感じさせる。民主社会主義者を自認するサンダース議員は、2月19日に2020年の大統領選挙への出馬を表明した。大本命のヒラリー・クリントン候補に対し予想外の善戦を繰り広げた2016年の大統領選挙と異なり、今回の予備選挙では、最も支持率が高い候補としての参戦である。出馬表明直後の選挙資金の集まり方でも、ほかの候補に圧倒的な差をつけている。
グリーン・ニューディールが新装開店
サンダース議員以上に社会主義論争を盛り上げているのは、同じく民主社会主義者を自認し、史上最年少の女性下院議員として抜群の存在感を示すアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員だろう。29歳のオカシオコルテス議員には、まだ大統領選挙に出馬する資格がないが、中間選挙での同議員の公約である「グリーン・ニューディール(GND)」は、早くも大統領選挙の論点になっている。
温暖化対策への大胆な投資と、それによる雇用の創出を組み合わせたGNDは、新しい言葉ではない。一般に使われ始めたのは2007年ごろであり、2009年のオバマ政権による景気対策には、一部の取り組みが盛り込まれたこともある。
しかし、今回のGNDは、いささか趣が異なる。国家をあげた温暖化対策を契機として、格差の是正などを目指した社会経済システムの改革までをも目指しているのだ。前述のメディケア・フォー・オールにつながる医療保険制度の改革はもちろん、すべての希望者に政府が雇用を保証する仕組み(「米民主党がブチ上げた「雇用保証」とは何か」までもが、GNDの範疇で議論されている。
途方もない夢物語のようだが、大統領選挙を目指す民主党の候補者たちは、決して否定的ではない。サンダース議員はもちろん、前述のメディケア・フォー・オールに賛成した候補者たちは、いずれもGNDの主旨をうたった決議案の共同提案者である。いくら社会主義の香りがする夢物語だとしても、無下には否定できないのが今の民主党の風景である。
ここまで極端な大きな政府への傾斜には、民主党の中からも警戒の声が上がり始めた。トランプ政権に社会主義と攻撃される材料を与え、選挙の勝利に重要な中道派の支持を失いかねないからだ。
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