「消臭力」がそれでもミゲルを使うワケ

異色のエステー宣伝トップが語る、究極のクリエーティブ哲学

さらに一歩進んで、「どう届けるか」にも踏み込む必要があります。僕はこれを「クリエーティブ2回変換」と呼んでいます。以前、プラグタイプの消臭力のCMを作ったとき、よいメッセージはできたものの、予算が少なく、放映回数を抑えなくてはなりませんでした。そこで僕は、唯一持っていた月曜夜9時のCM枠に毎回違う作品を流すことにしました。11種類のシリーズCMを作り、それぞれ2回ずつ放送したのです。

その結果、露出は他社より圧倒的に少ないにもかかわらず、生活雑貨部門のCMランキングトップ20に11種類中5本がランクインしました。「殿山くん」という殿様キャラクターを使った面白CMでしたが、同じ時間帯にシリーズ展開することで、少ない回数でも視聴者の印象に残るCMになったわけです。このように、届け方を“変換”することも重要だと思います。

CMは人の表情を変える

鹿毛 康司(かげ こうじ)●エステー 執行役 宣伝担当。1959年福岡県生まれ。早稲田大学卒業後、雪印乳業に入社。1993年米国ドレクセル大学にてMBAを取得。2003年エステー化学(現エステー)入社。同社の広告宣伝を統括。「消臭力」や「脱臭炭」CMなどのクリエイティブディレクターとしても活躍。

――鹿毛さんがCM作りに際して、最も重要視していることは何ですか。

一言で言えば「表情」でしょうね。僕はいつでもメッセージを届ける相手の表情を想像しながら、CM作りをしています。なぜなら人は大事な決断をするとき、最終的には表情や感情で決めるからです。人生最大の契約である“プロポーズ”の瞬間を考えたときだって、その成否を分けるのは、相手の表情や感情を見抜けるかどうかでしょ。僕がCMという手法にこだわる理由もここにあります。人の表情を動かすのは動画や音楽など感性的なものが多い。

しかし困ったことに、表情は定量分析には決して表れないのです。僕らはよく商品テストでユーザーの方にグループインタビューを実施するのですが、そのとき参加者の何人かがある質問を受けて、「あっ!」と驚いた表情をしたとします。でも、調査会社の人は「8人が驚いた」とはレポートしてくれません、返ってくるのは質問に対する言葉の回答だけ。重要な情報がすっぽり抜けているのです。

たとえば、このインタビュー記事だって、読者の皆さんが今「なるほど!」とうなずきながら読んでいるのか、「なーんだ」と呆れて読んでいるのか、同じ作業でも全然、違うと思います。本当はマーケターとしてはその表情をみたいのに、それを知る術はデータにはないのです。

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