酔客の汚物対策、電車運転士が「秘密兵器」開発 東急社員が現場の経験生かし日用品で手作り

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改良版は「このシートがあって助かった」「これがあると全然違う」と好評を呼び、6月から全国大会で発表する11月までの間に40件以上の使用実績があったという。

「最初は1人1枚ずつだったんですが『2枚持っていっちゃダメなの?』と言われるようになりました」(鈴木さん)。ほかの乗務区にも配布しており、目黒線を担当する奥沢乗務区には120枚を持ち込んだところ、半年で半分以上が使われたという。

完成形のシート。その後の改良で赤枠を付けて目立つようにした。注意書きのステッカーは乗務員に支給されているものを使っている(記者撮影)

竹植さんも実際に使う場面に遭遇した。3分30秒の折り返し時間に車内で汚物を発見し、すぐにシートを2枚使ってカバー。遅れることなく発車し、別の駅に清掃を依頼してスムーズに対応できたという。

「駅での清掃も見に行ったんですが、行ったときにはほとんど終わっていた」と竹植さん。吸水性のあるシートで片付けが容易になるとともに、シート自体が目立つため清掃場所がわかりやすいのも利点だ。

鉄道以外の応用にも期待

改良はその後も加えられており、最新版は手袋をしたままでも両面テープが剥がしやすいよう、角を浮かせる工夫を施している。

実際に使った乗務員の意見を受けて細かな改良も。手袋をしたままでも両面テープが剥がしやすいよう、小さなシールを貼って角を浮かせている(記者撮影)

テープの貼り方を見直し、製作時間も1枚4分程度から2分程度まで短縮した。職場で製作している様子を見たほかの乗務員からのアドバイスがもとになっているという。

実際にトラブルに直面する乗務員ならではの発想が生んだ「汚物カバーシート」。全国大会での発表以降はほかの鉄道会社からも問い合わせがあり、特にワンマン運転の鉄道が関心を示しているという。3人はさらに「鉄道以外の場所」にも広がらないかと考えている。

「テーマパークに行ったら、飲み物をこぼしたような形跡があって、そこをペーパータオルを使って拭いていたんです。こんな場面でシートを使えばもっと簡単に清掃できると思うんですよね」(片瀬さん)。2020年東京五輪の会場などでも、観客席で飲み物をこぼした際などに使えるのでは……と、さまざまな場面への応用にも期待している。

週末の夜、混雑する電車内を不快にする「汚物」。乗務員の工夫が生んだカバーシートは、そんな環境を少しでも改善してくれるに違いない。もっとも、いちばん重要なのは利用者側の「吐くなら乗るな、吐くほど飲むな」という心がけではあるが……。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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