「電車より快適」バスが活躍する香港の通勤事情 住宅地から市街地へ「乗り換えなし」で人気

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オフィスエリアが集中しているという背景もあり、香港の中心街に近い地域の住宅価格は、世界で1、2を争う高水準まで上がってしまった(中国本土からの投機的な資金の流れによる、という見方もあるが)。その結果、街から遠く離れたベッドタウンに居を移す人々が増えた。

しかし、郊外に住む人々が電車に乗ってオフィスが集まる中心街に行くには乗り換えが必要で、その結節点が極端に混み合う状況が日常的に起こっている。乗り換え駅である九龍塘駅や金鐘駅は駅の中を歩くのも大変なほどで、通勤にはかなりの体力と時間を要するわけだ。しかも長い夏の高温と湿気(さらに冷房が強いので、室内外の温度差、湿度差が日本よりきつく感じる)は身体にかなりこたえる。

このように、通勤事情は決していいとはいえない。そこで生まれたのが、ベッドタウンと市内中心部とを結ぶ「長めの距離を走る路線バス」だ。

高速経由のバスがスムーズな理由

香港島の銅鑼湾を走るバス。香港では30km以上の長距離を走るバスも少なくない(筆者撮影)

香港には幸いなことに、1997年の「中国返還」以降に整備された高速道路網がある。これのおかげで、郊外のベッドタウンと中心部との所要時間が随分と短縮された。高速道路の通行料は基本的に無料だ。

だが、九龍半島と香港島を結ぶ3本の海底トンネルの通行料が高価なうえ、駐車料金も高い。そのため、自家用車で通勤しようと考える人が大都市にしては比較的少なく、郊外を通る高速道路の渋滞はそれほど厳しくない。

また、海底トンネルへのアプローチ部分に設置されている「公共バス向け優先レーン」のおかげで一般車両と比べ圧倒的に早く通過できる。そんな背景もあって、朝の通勤時間帯でも郊外からの「長めの距離を走る路線バス」は安定した所要時間で中心街へと入ることができる。

香港における公共交通機関の運賃支払い方法もこれらのバスを使いやすくしているともいえる。香港には区間定期券が存在せず、非接触式ICカード「オクトパス(八達通)」で随時支払うシステムのため、日々の時間や都合に合わせて交通機関を選択できるという柔軟性も、バス利用者増加の後押しになっているといえそうだ。

起点から終点までの距離が20kmを超える、このバスの最大のメリットは「自宅の近くで乗り込んだら必ず座れ、勤務先の目と鼻の先で降りられる」ことにある。

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