「本から学ばない人」と「読書家」の致命的な差 齋藤孝「読書の効用は疑似体験にある」

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過去の偉大な人格に触れ、時代を超えたつながりを持っている人ほど精神が強くなる。今の時代だけを生きていると、ちょっと弱い。例えば、はるか2500年前の仏陀とつながっている人は、人類史上最強のメンターを得たということでもあります。当然それは心が強くなるでしょう。

人間の苦悩は四苦八苦と呼ばれ、生老病死の4つに、愛別離苦(愛するものと別離する苦しみ)、怨憎会苦(怨み憎んでいる者と一緒にいる苦しみ)、求不得苦(求めるものが得られない苦しみ)、五蘊盛苦(肉体と精神が思うままにならない苦しみ)の4つが加わる。

これらはすべて煩悩(執着)から生まれ、その執着をなくすことで苦しみから解放されると仏陀は説きました。人間がなぜ苦しむか? そのメカニズムを説明し、どう生きるべきかを体系的に説いたのが仏陀でした。

その教えを知ることで、迷いの心が少しずつクリアになります。なるほど自分が苦しんでいるのは怨憎会苦だなとか、求不得苦からきているなと冷静に分析できるだけで、苦しみはずいぶん楽になる。

村田諒太が『夜と霧』から得たもの

ボクシング好きならずとも村田諒太選手を知っていると思います。ロンドンオリンピックのミドル級で金メダルを獲得。その後プロとして日本人で竹原慎二さん以来、2人目のWBA世界ミドル級チャンピオンに輝きました。

私はスポーツ全般が好きで、ボクシングもよく観ます。村田選手の試合も見ましたが、日本人には不向きだといわれている大きな体格の階級で世界チャンピオンになったのは、とんでもない快挙だと思います。

その村田前チャンピオンが、影響を受けた本の1冊として『夜と霧』を挙げていました。この本によって練習の辛さや試合の厳しさを乗り越えることができたというのです。

ドイツに住んでいた精神科医のヴィクトール・E・フランクルは第二次大戦中、ユダヤ人として家族とともに捕らえられ、アウシュビッツに送られます。想像を絶する過酷な状況で命を落とす人、精神的におかしくなってしまう人など極限の状況が繰り広げられる。

ナチスの係官がユダヤ人の行列に向かって一人ひとりを指さし、お前は右、お前は左と指示する。片方はガス室で、片方はまだ働けそうな人間だとより分けている。係官の指先一つで自分の生死が決まる。

そんな話が次々に出てくる。全部実話であり、著者は家族の中で唯一奇跡的に生き残った。精神科医として、フランクルはその状況を客観的に克明に描きます。

人間の命とは? なぜ人間はこれほど残虐になれるのか? 同じ環境でも理性を保つ人とそうでない人の違いは? 極限状態の中で問いかけた著者の言葉は、もはや第一級の文学であり哲学書です。

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