1両まるごと「鼻」、JR東・次世代新幹線は2つの顔 時速360km運転目指し日立も先頭車両を公開

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斜め前から見たアルファエックス10号車。鼻の複雑な造形がわかる(撮影:尾形文繁)
先端のカバーはまだ取り付けていない(撮影:尾形文繁)

両端の車両で形状が異なる新幹線の試験車両は今回が初めてではない。JR東日本が開発し2005~2009年に走行試験を行った8両編成の「FASTECH(ファステック)360」も1号車と8号車で先頭形状が異なっていた。1号車はストリームライン、8号車はアローラインと呼ばれ、8号車のデザインはE5系開発の原型となっている。

ファステック360はその名のとおり、時速360kmで営業運転できる車両を実現するために開発された。新幹線の速度に関する技術開発を行う場合、高速で走行する技術が難しいと思われがちだが、むしろ技術的な課題は高速走行よりも、高速走行に伴う騒音の軽減、快適な乗り心地、非常ブレーキ距離の短距離化といった技術の実現にある。

ファステック360でも高速走行時に起きる現象を解明することが目的とされていた。走行試験を繰り返した結果、費用対効果を勘案して、E5系の営業最高速度は時速320kmにすることで落ち着いた。

E5系にはファステック360で培った技術がふんだんに採用されており、8号車の先頭形状デザインだけでなく、低騒音パンタグラフ、フルアクティブサスペンション、車体傾斜制御、台車カバー、全周ホロなどの技術も使われている。

「プラスアルファの価値」とは?

正面から見たアルファエックス10号車の鼻(記者撮影)

今回のアルファエックスは試験最高速度を時速400km程度として、時速360kmの営業運転の実現に再チャレンジする。今回の実験で得られた成果もその後に開発される営業車両に採用されるに違いない。

1号車は現在のE5系と同じ客室スペースを確保している(撮影:尾形文繁)

また、将来の北海道新幹線札幌延伸時には、長時間に及ぶ東京―札幌間の移動をいかに過ごすかも課題の一つになる。JR東日本はこれからの新幹線に求められることとして、安全・高速・大量輸送だけではないプラスアルファの価値を提供するべきだと考えている。

アルファエックスの1号車、10号車は先頭形状が長い分、客室スペースが小さい。このスペースを客室以外に活用して、「プラスアルファの価値」を提供することは十分考えられる。客室以外の活用法とはビュッフェなのか、会議室なのか、ラウンジなのか。興味は尽きないが、あらたな旅の価値を実現するためにも、アルファエックスの走行試験はぜひとも成功させる必要がある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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