広告収入の落ち込みが深刻、テレビ局総崩れで瀬戸際の制作会社
「2008年の夏以降、一気に環境が厳しくなった。今期の赤字は避けられない」--。ある番組制作会社の幹部が、苦しい胸の内を吐露した。実は今、多くの制作会社が未曾有の苦境に立たされている。
原因はテレビ局の業績不振だ。景気後退による広告市況の悪化で、特に番組と番組の間に放送されるスポット広告は07年10月から出稿量が急減。そのあおりで今4~9月期業績は、在京の民放キー5局のうち4局が減益で、日本テレビ放送網やテレビ東京は最終赤字を計上した。さらに12月16日には、テレビ朝日が今期3度目となる業績予想の下方修正を発表している。
各局とも利益確保のために、なりふり構っていられない状況だ。他局との競争力の源泉となる番組制作費の削減に踏み切っており、そのシワ寄せが制作会社に来ている。
テレビ局の要求を突っぱねられない
発端となる“事件”が起こったのは08年春。この年の初め、番組制作費の削減に着手したフジテレビジョンが、日曜日午後に放送する「ザ・ノンフィクション」の予算を75%カットすると制作会社に通告したのだ。業界団体の全日本テレビ番組製作社連盟が抗議してフジは譲歩したが、それでも予算は50%削減されたという。
厳しい状況下でも、個々の制作会社にはテレビ局の要求を簡単に突っぱねられない事情がある。一つは放送免許。番組放送の免許はテレビ局が所有しており、制作会社がいくら良質の番組を作ろうと、免許なくして放送はできない。
加えて規模の格差も問題だ。総務省の放送番組制作業実態調査(08年2月)によれば、回答した制作会社257社のうち、売上高5億円未満の会社が全体の6割強。ほとんどが中小・零細企業である。しかも番組制作は1件で百万~千万円単位と単価が大きいため、仕事を受注できなければ、すぐに経営が苦しくなる。「採算が合わないと仕事を受けなかったときに、局のプロデューサーから『じゃあ次は発注しません』と言われるのがいちばん怖い」(制作会社幹部)。結局、制作会社はテレビ局の意向に従わざるをえないのが実情だ。
さらに番組の権利関係も事態を複雑にする。制作会社にとって、番組のDVD化や海外への販売等の2次利用は、制作費収入以外の収益源につながる。ただ総務省調査では、「完全パッケージ」(いつでも放送できる完全な形でテレビ局に納入した番組)のうち「制作会社の意向のみで2次利用が可能なもの」は5・4%にすぎない。
番組のジャンルや制作方法で違いはあるが、現状ではテレビ局が著作権を保有し、制作会社は制作協力の形をとることが多い。テレビ局にとって著作権は虎の子。本業の放送収入が落ち込む中、放送外収入を手放すわけにはいかない。
また、制作会社が著作権を所有できても2次利用は簡単ではない。テレビ局と制作会社の契約では多くの場合、2次利用の許諾を独占的に行う業務(窓口権)が設定される。現状では窓口権の大半はテレビ局が所有し、制作会社の意向で自由に2次利用はできない。著作権や窓口権を要求するにも、制作会社は規模が小さく、立場が弱い。番組制作に手いっぱいで、2次利用のための体制づくりができない事情もある。