中小企業と業務自動化ソフトの相性が悪いわけ

導入効果小さく、業務の全体像把握も困難

日本RPA協会の代表理事も務める大角氏は、こうした取り組みを背景に「企業にとってのRPAは近いうちに、現在の個人にとってのスマートフォンのように欠かせないものとなるだろう」と見通す。

一方で、中小企業へRPA導入のコンサルティングやセミナーを行うスターティアレイズの鈴木健太シニアマネージャーは「料金負担が下がったとしても、中小企業にはRPA導入に踏み切れない事情がある」と指摘する。RPAを昨年から導入した不動産サービスの中規模企業・エスフィットの紫原(しはら)友規社長も「すべての企業がRPAを導入することは無理だろう」と語る。

大企業は取引先や従業員が多く、1つの業務を大量に行うことが多い。このため、定型業務の人為的ミス削減などRPA導入後の効果は大きい。しかし、中小企業は取引先や従業員が少なく、1つの業務量も小さいため導入後の効果が小さい。中小企業ではこの点が「導入のための最初の関門となることが多い」(鈴木氏)。紫原社長も「当社は全国22店舗ある規模だったから導入に踏み切れたが、仮に3店舗しかない事業規模だったら導入は考えにくい」と話す。

導入には社内業務の可視化が必要

さらに、中小企業は自社が行っている業務の全体像を把握することが難しい。RPAを導入する際、最初に取りかかる作業は「社内業務の可視化」だ。大企業であれば、業務の引き継ぎなどを通じて社内業務を把握し、業務手順がマニュアル化されていることが多い。しかし、多くの中小企業にそのようなマニュアルを作る余裕はない。社内業務が可視化されなければ、RPAソフトに業務を教えることは困難だ。

従業員数350人のエスフィットでは、財務経理部門の業務だけで18分類・57業務に細分化されたという。社員が日々の通常業務をこなしながら、業務を緻密にあぶり出していくことは容易ではない。企業のRPA導入を支援する「RPA女子プロジェクト」を手掛けるMAIAの月田有香CEOも「企業が導入にあたって最も苦労しているのが、この業務の可視化プロセスだ」と語る。

エスフィットの紫原社長は、社内にRPAプロジェクト専任のリーダーを置くことの重要性を説く。「従業員が通常業務と並行して、片手間でRPA導入を進めるのは無理」と理解したからだ。そのため、本業である不動産仲介で営業成績トップであった従業員を、RPA導入プロジェクトのリーダーとして専念させた。実際の現場で業務を行った経験のある従業員が指揮すれば、効率的にRPAを導入できる。また、導入過程の地道かつ緻密なプロジェクトを統率できる「能力と意欲」も欠かせない。紫原社長はRPA導入の投資対効果がどれだけ期待できたとしても、「導入プロジェクトを任せられるリーダーが社内に見つからなければ、導入を見送っていた」と明かす。

RPAは、大企業のみならず中小企業でも一定以上の規模があれば導入効果を出せることは事実だ。安価に始められるクラウド型サービスが投入されたことも大きい。ただ、社内業務の可視化を実現でき、導入のリーダー役がいない中小企業では、実際にRPAを本格導入するのは難しいのかもしれない。

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