コーヒー券を完売、新幹線パーサーの販売術 育児と仕事の両立で「乗務する母」の先駆者に

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確かに“誰にでも声をかける”というのは簡単なようで難しい。スーツ姿のビジネスマンなど、日常的に新幹線を利用していそうなお客を狙い撃ちすればいいのに、とも思ってしまう。

この疑問に対し矢野さんは「スーツを着ていなくてもよく新幹線を利用されるというお客さまはたくさんいますから。先入観を持たずに、全員です。断られる前提でお声がけをします」と言い切った。

このように販売成績が優秀な矢野さんだが、入社当時は結婚後もパーサーの仕事を続ける人はほとんどいなかったという。現在も12歳、10歳、3歳の3人の子どもを育てているさなか。長男出産時には社内制度も整っておらず、仕事を続けるのにはずいぶんと苦労もあったようだ。

「この仕事が大好きなので、子どもができたからといってやめようとはまったく思わなかったですね。どうにかして続けてやろうという感じで。でも、その頃は時短勤務みたいな制度はなかったので大変でした」

「朝7時に子どもを保育園に預けて出勤して、夕方も19時に保育園に迎えに行って、とギリギリの生活。乗務できる時間が限られるので、そこは相談して『この時間なら乗れます』みたいな感じですよね」

現在は「育児行路」もある

矢野さんをはじめとする“先駆者”のおかげで少しずつ社内制度も整えられて、今では子どもが3歳になるまでの社員が利用できる「時短行路」や小学校未満の子どもがいる社員向けに日勤のみの「育児行路」などが用意されるようになった。

矢野さんは「周囲の理解があって続けてこられた」と振り返る(撮影:尾形文繁)

「でも子どもが小学校に入ると泊まり勤務をしないとダメなんですよね。泊まり勤務になると、子どもと一緒にいる時間がどうしても減ってしまいます。でも子どもはまだまだ甘えたい時期ですし、環境も変わって心の変化も大きい時期。だから、退職しようかどうしようかと迷いまして……」

その悩みを子どもに相談したところ「ママはその仕事が好きなんでしょ。ならやめちゃダメ」と返事がきたという。

それでも矢野さんの決心はつかず、夫に相談。「そしたら夫が『じゃあ俺が仕事やめるよ』って言ってくれて、転職してくれたんです。そういう周囲の理解もあったおかげで、この仕事を続けられているのだと思います」

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