麻生太郎首相に訴える、速やかな解散総選挙こそ最大の“ご奉公”

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原点から考えてみれば、麻生政権の最大の問題点は、レジティマシー(正統性)の欠如である。政権が正統性のあるものとして広く国民に認められるためには、選挙の洗礼が必要である。

特に、現在の衆議院の勢力分野が成立したのは小泉純一郎首相(当時)による05年8月の郵政解散を受けた総選挙(10月投票)だ。この選挙は、郵政民営化の是非をほぼ唯一の争点に戦った選挙だった。

ところが小泉内閣退陣後、選挙を経ない内閣が次々に成立した。安倍晋三内閣、福田康夫内閣、麻生内閣と、小泉後の内閣は後になればなるほど正統性が失われていく。直近の総選挙後4代目となる麻生政権には、ほとんど正統性が欠けていると言わざるをえない。

もちろん憲法に反しているわけではないが、総選挙を経ていない内閣がこれほど多く続くことは異常である。これは憲法では想定していない事態なのではないか。

たとえば次のような状況は原理的に考えると、かなりまずいことなのではないだろうか。

11月26日、「郵政民営化の見直しに関するプロジェクトチーム」が初会合を開いた。郵政民営化を見直す自民党の議員連盟「郵政研究会」(代表・山口俊一首相補佐官)も活動している。いずれも小泉郵政改革の流れに反する動きである。05年の総選挙で郵政改革を公約に当選した自民党衆議院議員たちのこうした動きは、はたして許されるものなのだろうか。

確かに前回の総選挙で、有権者は自民党を大勝させたが、決して白紙委任をしたわけではない。これは小泉郵政改革をどのように評価するのかとはまったく別の、民主主義や議院内閣制の原理的な問題である。

もう時間はあまりない

麻生首相は、事ここに至っては一刻も早く解散すべきだ。総辞職して選挙管理内閣をつくれというような意見もあるが、そもそも麻生内閣こそが選挙管理内閣のはずである。これ以上、無意味な内閣をつくるべきではないし、何より貴重な時間を無駄に費やすべきではない。

時期が遅れれば遅れるほど解散は難しくなる。景気、雇用など、日本経済の深刻な実態が次々に明らかになり、内閣支持率もさらに低下していくだろう。それに伴って自民党内の反麻生の動きも強まっていく。

もう一つ、今の国会には早期に解消しなければならない、衆参ねじれという深刻な問題もある。

現在は与党が衆議院の議席の3分の2を握っているため、衆議院による再可決という奥の手があるにはある。だが現実問題として今の国会は半身不随の状態である。この体制で、今後しばらく続くであろう現在の危機的状況を乗り切っていけるとは到底思えない。

ねじれを解消するためには、自民党が総選挙に負けて民主党中心の政権が成立するか、新たな組み合わせの連立政権ができるか、あるいは政界再編をやるか、要するに衆参両院とも同じ党派が多数を占めるしかない。それらのいずれにせよ、総選挙をやらなければ事態は動かず、衆参のねじれは解消しないのである。

この最も困難な時期に、正統性を欠き、国民の支持を欠き、適切な政策を欠いた、最も弱体な内閣が政権を握っているという日本の現状は、ほとんどブラックジョークである。

麻生首相が今、やろうと思えばでき、しかも首相しかできない国家に対する最大の“ご奉公”は、一刻も早く衆議院を解散し、総選挙を行うことである。残された時間は非常に少ない。すでに、もはや「解散する力すら、現在の麻生政権にはない」(山崎拓・前自民党副総裁)という声が出ている状況なのだ。

麻生首相の一刻も早い決断を訴えたい。

(福永 宏 =週刊東洋経済)

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