沖縄県民が今も「旧暦」を使い続ける歴史背景 「シーミー」「ウンケー」など独自の文化

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また、長寿祝いもタイミングが違います。日本各地で地域差がありますが、一般的に想像する長寿祝いといえば還暦(60歳)・古希(70歳)・喜寿(77歳)・傘寿(80歳)・米寿(88歳)・卒寿(90歳)・白寿(99歳)ぐらいでしょうか。一方沖縄では還暦を満60歳(数え61歳)で、米寿(トーカチ)を数え88歳で祝うことは同じですが、ほかの祝いが異なります。

すべて数え年ですが、73歳、85歳、97歳で祝いを行います。これらの祝いには共通点があるのですが、わかるでしょうか。実はこれ、自分の干支が巡ってきている年なのです。

これらのお祝いは還暦とあわせてトゥシビー(生年祝い)というものに由来しており、沖縄では重要なイベントとなっています。トゥシビーは数え年で祝うので、つまり数え年13歳で初めてのトゥシビーを迎え、25歳、37歳、49歳と祝っていきます。そして、数え年の61歳で還暦を祝い、73歳、85歳も祝い、最後のトゥシビーとされている97歳はとくに盛大に祝います。

97歳の祝いはカジマヤーと呼びますが、これは沖縄では風車を意味するので、祝いの席では風車をもつ姿も多く見受けられます。毎年9月7日に行われるのが慣例になっています。

このほかにも沖縄には独自の行事がさまざまありますが、これらは沖縄に根付いた暦としてカレンダーだけでなく、「沖縄手帳」という地元で販売されている手帳にも掲載されています。スケジュールを考える際にもこのようなものを見る必要性があることを考えても、旧暦がなければ沖縄での生活が成り立たないということがよくわかります。

島独自の「砂川暦」とは?

沖縄における旧暦文化の根付き方がわかったところで、沖縄独自の暦をもう1つ紹介したいと思います。宮古島で使われていた「砂川(うるか)暦」というものです。

砂川というのは島の南部にある地名で、その周辺で使われていた絵暦が砂川暦です。このなかで使われていた記号を調査すると面白いことがわかりました。この記号が「天人文字」という記号に類似していたのです。

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天人文字とは、1713年に完成した『琉球国由来記』に「この国に天人が降臨し、ぞくに時双紙(ときそうし)という占書を教えたときに、文字も教えられたという。その字は数百あった。しかし天人が教えた占書を占者が間違ってもちいたので、大いに怒り書を引き裂いて天に昇ってしまったため、その残片が残った。それを巫覡(ふげき)が月日の選定にもちいており、その文字の例がこれである」(意訳)と記載されていた文字です。そして基本となっている暦には旧暦が使用されていました。琉球国からの伝統が受け継がれていたことがわかります。

砂川暦には月日と曜日が記されていますが、その最大の使用目的は吉凶を知ることにありました。今でも旧暦が深く浸透している沖縄では、行事以外にも吉凶の判断に旧暦が重要な役割を果たしています。現代沖縄文化のルーツの1つをあらわしているのがこの砂川暦であり、琉球以来の伝統を今に伝える貴重な暦となっています。

中牧 弘允 国立民族学博物館名誉教授
なかまき ひろちか / Hirochika Nakamaki

1947年、長野県生まれ。埼玉大学教養学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。国立民族学博物館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授、吹田市立博物館館長。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事。日本カレンダー暦文化振興協会理事長、千里文化財団理事長。

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