絶好調Netflixが「映画館に敵視される」事情 映画「ROMA」の成功の裏にある劇場主との衝突

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本命のオスカーでも、外国語部門受賞は(『万引き家族』には残念だが)ほぼ確実だ。作品と監督部門も、かなり有力。ほかには、脚本、撮影、主演女優、助演女優、美術、音響編集、音響調整の部門で候補入りしている。

劇場主との対立深めるネットフリックス

しかし、こうしたネットフリックスの新たな戦略と成功は、海外の劇場主との対立をますます深めている。

ネットフリックスが展開する「ストリーミング配信」とはそもそも、家にいながらテレビやPC、タブレットで見るものだ。自社作品を映画祭に出したり、賞を狙うための言い訳程度に劇場同時公開したりするネットフリックスは、観客に「外に行かなくても家で十分映画館級の作品を見られますよ」と言っているようなもの。つまり、映画館にとって商売敵と言ってもおかしくない。そうでなくても近年、興行主は、観客動員数が伸びないことに頭を悩ませているのだ。

今年、カンヌ映画祭ではフランスの興行主の抗議がきっかけとなってネットフリックス作品は上映されなかったし、『ROMA』が最高賞である金獅子賞を受賞したヴェネツィア映画祭でも、イタリアの劇場主から不満の声が上がった。アメリカでも『ビースト・オブ・ノー・ネーション』でネットフリックスがストリーミングと劇場同時公開に挑んだ2015年から、劇場主の怒りの声は絶えない。

当然のことながら、ごく一握りを除く劇場は、ネットフリックス映画をボイコットしてきている。今回『ROMA』が3週間ほど劇場のみで先に公開したことは、さらに興行主の恐怖を駆り立てることになった。

劇場公開からDVDリリースまで、どれだけの期間を置くのかという問題は近年、スタジオと興行主の間で頻繁に論議されている問題である。現在のところは劇場公開日から3カ月は空けるというのが一応のルールだ。なのに、ネットフリックスは突然やってきては「3週間」という新たな前例を作ってしまったのである。

スタジオだって、ピークを過ぎた映画はとっととパッケージ化や、有料配信して、お金を稼ぎたい。しかし、「ちょっと待てば家で安く見られる」というのが常識になるのを恐れる興行主が、それを阻止する。

スタジオにとって興行主は自分たちの映画をかけてくれるパートナーなので、そちらの言い分も聞いてあげなければいけない。そういう関係が成り立っているのに、しがらみがないネットフリックスが勝手にそれをぶち壊そうとしていると、興行主は見ているのだ。

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