北海道―欧州直行便「17年ぶり復活」の勝算 フィンエアーが今年12月から就航開始

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日本―ヘルシンキ間の乗客の大半は、空港外へ出ることなく欧州各地へと乗り継いでいく(ヘルシンキ・ヴァンター空港、筆者撮影)

これについて北海道庁の後藤氏は「ヘルシンキへの所要時間は日本の5空港の中で、新千歳からがいちばん短くなる。東北各地からのヨーロッパ行きのお客様はもとより、東京からでも遠回りにならないので、利用価値は高いと思う。長時間フライトが少しでも短くなるのは利用される方にとって、より身体への負担が軽くなるのではないか」と新規路線の効用を力説する。

「ツアーの片道だけ、日本各地からの乗り継ぎで新千歳発着便を利用するといったケースを想定している。逆に北海道のお客様が曜日の都合で名古屋などを経由して帰ってくるかもしれないので、まずは週2便の運航でも、他空港との組み合わせで利用することでバリエーションを広げられることをアピールし、乗客を増やし、将来的にはこの路線が増便されることを願っている」(後藤氏)

カギを握るのは日欧線4社共同事業

一方、フィンランドに渡って今年で18年目を迎えるセルボ貴子さんは、「人工降雪でなく、自然の雪の上を滑れる北海道のスキー場はこちらでも高く評価されている。毎年訪日するコアなスキー愛好家もいるくらいで、直行便ができることでさらに渡航者が増えそう。もともとフィンランドと北海道は気候も似ているので」と期待感をにじませる。

しかし、フィンランドからの観光客で新千歳行きの席を埋めるのは現実には難しいだろう。そうした中、フィンエアーが参加している「日欧線の4社共同事業」が大きなカギを握る。ヨーロッパ内に住む訪日客は、欧州各地―ヘルシンキ間の乗り継ぎ便についてフィンエアー自社便のほか、BAの運航便などを格安な料金で利用できる。したがって、北海道行き旅客の集客ソースはフィンランド1国だけでなく、ヨーロッパ全体という広範なマーケットが相手だというわけだ。

残念ながら、新千歳便就航は今年秋に日本で開かれるラグビーワールドカップ(W杯)には間に合わないが、札幌ドームではイングランド代表のW杯初戦が開かれることが決まっている。来日するイギリス人サポーターらに積極的にPRして、今後のリピーター創出につなげるためにも、便利な直行便の就航決定は何かしらのインパクトになることだろう。

このように意外と善戦しそうな新規就航便だが、日本の専門家はどう見ているのだろうか。

旅行情報サイト「トライシー(Traicy)」の後藤卓也編集長は、「冬場の降雪による滑走路閉鎖で、遅延やキャンセルが起こりはしないだろうか」と懸念を示す。一方で、フィンランドがIT産業、ことにゲーム関連業界で先行していることから、「新たな貨物輸送需要の拡大に期待したい」と述べている。

地元の人々の「悲願達成」ともなるフィンエアーの新千歳乗り入れ。12月16日に到着する初便にはフィンランドからサンタクロースがどんなプレゼントを持ってくるだろうか。乗り入れは年末のことだが、どんな経過をたどるか楽しみに待ちたい。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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