旧国鉄と民間が激戦、欧州の「鉄道戦国時代」 上下分離で参入自由化、新参企業が絶好調

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たとえばドイツのベルリンからハノーファーまでチケットを買う場合、多くの人はドイツ鉄道のサイトにアクセスするだろう。ほかの列車運行会社があったとしても、検索に引っ掛からなければ気付かない人も少なくないだろう。これこそがいちばん難しい部分で、どれだけ安く価格を設定し、高水準なサービスを提供したところで、それをきちんと比較検討してくれる人が増えてこない限り、売り上げを伸ばすことも、リピーターを呼び込むことも難しい。

成功を収めている例を見ると、フリックストレインは乗客数が伸び悩んだことが理由で撤退した列車を引き継いでスタートしたが、すでに多くのバス路線網を持つフリックスバス社のサイトに鉄道予約ページへ直接飛ぶリンクを設けたことで知名度が向上し、乗客数を伸ばすことに成功した。つまり、まずはバスユーザーだった人たちを取り込んだ、ということになる。

つねに満席に近い状態で運行されるレギオジェット。価格が安いことに加え、車内では客室乗務員が乗客の案内をするなど、サービス面が充実している(筆者撮影)

また、チェコで爆発的な人気となっているレギオジェットは、その親会社であるスチューデント・エージェンシー社が格安高速バス事業で成功を収めていた。同社は鉄道事業へ進出するにあたって、鉄道とバスを統一ブランドの「レギオジェット」へ変更、同じサイト上で一体的に販売し、時間帯や方面によって鉄道もしくはバスを適宜案内することで、利用客の獲得に成功している。

低運賃戦略には限界がある

販売価格が適正であるかどうかも重要だ。運賃を設定する際、驚くような低価格は目を引くものの、あまり低すぎると収益に影響を及ぼす。

イタリアのイタロは当初、かなりの低価格で目を引いたが、そのせいもあってか運行開始初年度は利用客数こそ堅調に推移したものの、売り上げについては当初予想を下回る結果になった。知名度を上げるために期間限定で低価格にすることは有効と言えるが、それだけに頼った戦略では、その先の収益は見込めない。現在、イタロの知名度は十二分に高まったこともあり、以前ほどの低価格では販売していない。

民間オペレーターの参入は決して容易なことではないが、努力と工夫次第では、まだ眠っている需要を掘り起こす原動力にもなりうる。今後もこうした民間の参入は続いていくことが予想され、各国の旧国鉄系鉄道会社は今のうちにしっかり手を打たなければジリ貧となっていくことは間違いない。ヨーロッパはまもなく「真の鉄道戦国時代」の幕開けとなるかもしれない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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