元中国大使が大胆予測!米中貿易戦争の行方

トランプ強硬策が中国の技術力を後押しする

上海などの大都市では、現金で買い物をしているのは外国人観光客くらいである。仮想通貨でも、中国は積極的に発掘(マイニング)に力を入れている。仮想通貨でヘゲモニーをとるのは取引の量ではない。8割のマイニングパワーを持てば、仮想通貨を支配することが可能といわれる。

アメリカの「90日交渉」には、こうした中国のサイバー技術を抑え込むねらいがあるように見える。

無意味で無力な中国包囲網

トランプ大統領は、かつてのココム(Coordinating Committee for Multilateral Export Controls)のようなことを考えているのかもしれない。ココムとは1949年に西側資本主義国がつくった、ソ連をはじめとする共産国への戦略物資・技術流入を防ぐ機関である。ソ連崩壊によって1994年に解散した。

日本では1987年の「東芝ココム事件」が有名だ。東芝の子会社、東芝機械がソ連に売った工作機械等が戦略物資とされ、アメリカはココム協定違反として東芝グループ製品を輸入禁止とした。この事件を受け、東芝は当時の社長・会長が辞任するという事態となった。

アメリカは友好国を巻き込んだ「中国版ココム」を考えているのかもしれない。しかし、世界の歴史が示すように技術は必ず移転する。アメリカが中国を封じ込めようとしても、技術は製品という形で第3国を経由して移動することができる。第3国を経由すれば、アメリカ製品が中国に入ることも、中国製品がアメリカに入ることも可能である。

技術の流入、流出を防ぐために中国を封じ込めても実効性は低いだろう。現代の世界で、すべての友好国に巨大市場である中国との取引を強制的に制限することは、アメリカの力をもってしても不可能なことは火を見るよりも明らかだ。

また、アメリカのハイテク製品を自由に中国国内に流通させれば、中国は喜んでアメリカ製品を買う。しかし、アメリカの製品が入ってこなければ、中国は自前で技術開発を進めるしかない。

トランプの中国封じ込め政策は、結果として習近平の「製造2025」に拍車をかけ、中国の技術力を押し上げる可能性もある。結果的に習近平の「製造2025」をトランプが後押しするという、皮肉な展開となるかもしれない。長い目で見れば、トランプは中国の技術発展の応援団となるだろう。

歴史上、技術移転を止めることができなかったのは、技術は人に付いてくるからだ。製品の輸出入はある程度までは禁止できても、人の移動は止められない。アメリカで学ぶ中国人留学生、アメリカ企業に働く中国人スタッフ、彼らの頭の中まではいかなる大国でもコントロールすることは不可能だ。技術の移転は、正当な手段によるものであれば認めるしかない。

米中通商交渉も覇権競争のための駆け引きではなく、相互に正当なルールを築き、正しい運用と責任ある管理を行うという点に落ち着くのではないかと私は考えている。

いま先進国では政権の支持と不支持が拮抗している。アメリカもそのひとつだが、EUもイギリスのブレグジットを控えているし、EUの中心となって牽引してきたフランス、ドイツも政権が揺れている。いま世界の国民が、支持と不支持の間で迷っているのだ。

迷いは不安を生み、不安はやがて不信となる。「信なくば立たず」という言葉は、国は民の信用がなければ立ち行かないという意味だが、国民から信用されない政権が長続きしないというのはいうまでもないことだ。

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