日本の老人ホームがドイツより庶民的な理由

彼の国の実状を見れば違いの大きさは歴然だ

庶民でも老人ホームに入れる国とそうでない国の違いは?(写真:KatarzynaBialasiewicz/iStock)
75歳以上の「後期高齢者」の医療費自己負担は1割。特別養護老人ホームには、条件を満たせば、自己負担月額10万円程度で入ることができる。そんな日本の「当たり前」は、ドイツでは、ぜんぜん当たり前ではない――。

驚くほどぜいたくなドイツの非営利老人ホーム

シュトゥットガルト市の南、うっそうとした森の始まるちょうど入り口に、その老人ホームはあった。シュトゥットガルトは緩やかな盆地になっており、市の中心はその真ん中の、すり鉢の底に当たるところに位置する。だから、この老人ホームが立っている場所は、町の中心に比べると、少し標高が高かった。そして、こんなに緑に囲まれていながら、市電でも車でも、中央駅からわずか 20分足らずという最高の地の利だ。

シュトゥットガルトはドイツで6番目に人口が多い。産業が発達し、治安もよく、教育程度も高いという、いわば豊かな都市だ。平均給与を都市ごとに比較してみると、毎年、ドイツで3本の指に入る。町のそんな羽振りのよさを象徴するかのように、その老人ホームはカラフルで、手入れの行き届いた外観だった。

デラックスな印象は、建物の中に入るとさらに強くなった。広々としたレセプション。外に面する大きなガラスの壁。ソファ。部屋の片隅には、立派な弔辞の記帳本がページを開いたまま飾ってあった。亡くなった入居者に対する心のこもった言葉が、さまざまな訪問者の筆跡で書き込まれている。その横には白いバラの花の一輪挿し。しかし、何よりも私を驚かせたのが、ここがプロテスタント教会関係の基金、つまり非営利団体の経営する老人ホームであるという事実。日本では、社会福祉法人の特別養護老人ホームで、ここまでぜいたくな施設は見たことがなかった。

この老人ホームは、長期滞在者用と、短期滞在者用、そして、ケア付き住宅に分かれている。ケア付き住宅の居住者は、お金を払えば各種のサービスが受けられるが、基本的には普通の2DKの住宅と同様だ。ただ、普通の住宅より家賃は高い。そのほかの居住区は、介護の必要な人用と、認知症の人用に分かれている。ショートステイも受け入れている。ベッド数は全部で150床だ。

驚いたのは、寝たきりの人でない限り、たとえ認知症であっても、それぞれがトイレとシャワーのバスルーム付きの個室に住んでいたことだ。部屋は、ベッド、タンス、テレビ台、テーブル、ソファといった標準的な付属品のほか、自分の使い慣れた家具を持ち込めるスペースがあった。なじんだ家具があれば安心するし、今までの暮らしとの断絶も少なくなるという配慮である。

私が見せてもらった認知症の人の部屋は、驚くほど整然としていた。住人はおやつで外に出ていたが、ベッドにはピシッとカバーが掛けられ、棚の上に置きっ放しになっている物はなく、床にはチリ一つ落ちておらず、広々としたバスルームは、洗面台も、トイレも、そして、バリアフリーになっているシャワーも小奇麗で、置いてあるシャンプーやせっけんにいたるまで、曲がっているものがない。あまりにも整然としているので、ふと、チェックインのあと、初めて自分のホテルの部屋に足を踏み入れたときのような感覚に襲われたほどだ。

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