中後悠平、二度「戦力外」を受けた男の恩返し 理解者だった義父と突然の別れ、激動の1年
「今度は僕が家族をしっかり養っていかないといけないなって。日本におった時とメジャーに挑戦した時、そして今、ベイスターズでマウンドに上がる時、その時々で僕の立場って全然違うんですよ。
プロに入団した時は独り身で、でも今は家族がいる。もっと言えば、一度目の戦力外通告を受けた時に長男がお腹にいて、アメリカにいる時に家族がもう一人増えた。家族を持って、背負って投げる。その心境は全然違いますね」
ロッテから戦力外になった直後に生まれた長男は3歳、メジャー挑戦中に生まれた次男は1歳になった。長男は、中後が野球をやっていることを理解できる年齢になった。ベイスターズと同じ青色のユニフォームのチームを見ると、全部が父親のチームだと思っているという。こんなエピソードがあった。中後が二軍での調整中に、一軍の試合のテレビ中継を家族で見ていた時のことだった。
「テレビを見ながら、『あれ?お父ちゃんがいない……』って。それで僕の方を見て、『あ、いた』って(笑)。こら、傷つくやんか!って」
そう言って中後は、父親の顔をのぞかせながら苦笑した。来年には、次男も中後が野球選手であることをうっすらと分かるようになっているかもしれない。だからこそ、二人の息子の目に、自分の挑戦し続ける姿を、マウンドでの勇姿を、しっかりと焼きつけたいと考えている。
中後にとっての義父への恩返し
妻や息子たちのためにも、天に召された義父のためにも、来季の活躍を誓う中後。千葉ロッテをクビになった時26歳だった中後も、来年には30歳になる。幸いチームと来季も契約を結ぶことができた。
今季は8試合に登板して防御率は3.68とまずまずの成績を残した。来年、いよいよ勝負の年。今、中後の胸中にはどのような思いがよぎっているのだろうか。
「野球で結果を残して家族みんなを安心させることが、誰もが喜ぶことだと思うんです。きっとお義父さんは天国から見ていて『やってみろ。俺は見てるぞ』みたいに言うんじゃないかと。おいしい酒でも飲みながら、僕のピッチングを見てくれていると思うんです。お義父さんは横浜ファンだったので、横浜スタジアムで投げて活躍している姿を見せられたら、それがいちばんいい恩返しになるといつも思っています」
来年の横浜スタジアム。守るべき家族のために力投をする中後と、ありったけの声援を送る妻と息子たち。
そしてその光景に、横浜の夜空から義父が優しく微笑んでいることだろう。「今日はうまい酒が飲めるぞ、悠平」と言いながら。
(敬称略、文:津川晋一/ディレクター・スポーツジャーナリスト)
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