15代目クラウン「劇的だが普通な進化」の神髄 「間違いだらけのクルマ選び」はどう評するか

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パワートレインは3種類。ハイブリッドは2つ用意されていて、最大熱効率41%を実現した直列4気筒2.5Lエンジンを使ったベーシック版に加えて、やはりLC、LSと共通のV型6気筒3.5Lエンジンを用いたマルチステージハイブリッドが選択できる。もうひとつは、直列4気筒2Lターボと8速ATの組み合わせだ。

走り出すと、すぐにこれは今までのクラウンとは違うぞと感じた。ビシッと真っ直ぐ走るし、乗り心地もフラットで目線が上下に、あるいは左右に揺れることがない。正直、この点ではレクサスLSよりも上。全幅が狭いため、こちらはリアサスペンションをレクサスGSと共用しているというのだが、むしろそれが良い方向に作用しているようである。

しかも足取りは軽やか。ボディの剛性感はしっかりとしているのに重々しい感じがせず、まるでクルマが嬉々として走っていくようなのだ。さぞ軽いのかと思って車重を見ると、実はメルセデスベンツ「Eクラス」やBMW「5シリーズ」よりむしろ重いくらいなのだが、受ける印象は真逆なのが面白い。

2.5Lハイブリッドがゆったり心地いい

2.0RSアドバンスは引き締まった乗り心地だが、カドは丸められていてタッチは上質だ。大きなうねりを越えたときにも一発で姿勢を収めるさまは、かつてのクラウンとは別物である。軽やかに感じられるのは、全幅が狭く、あまり太いタイヤを履けないのもプラスに効いているのかもしれない。

最高出力245馬力の2Lターボエンジンは、フラットなトルク特性が8速ATとマッチしていて、日常域から活発によく走るし、回せば心地よい吹け上がりにパワーがよくついてくる。フットワークに見合った小気味良い走りが可能だ。

ただし、軽やかと持ち上げておいて何だが、逆に深く濃い味わいのようなものは感じられないとも言える。それが得られるのは、分厚いトルクと6気筒ならではのスムーズな吹け上がりを得られる3.5Lマルチステージハイブリッドぐらいである。

気に入ったのは、2.5Lハイブリッドだ。特にタイヤサイズを欲張らない仕様の乗り味は粛々と穏やか。しかし走りの土台はちゃんとしているから、ゆったり心地良さにひたれる。しかも燃費は圧倒的なのだ。案外、一番の買い物になりそうである。

セールスポイントであるコネクティッド機能の中身は、LINEでクルマと会話するサービスなど一部を除けば、すでに機能としては実現されていたものだ。ドライブの安心感を高め、使いこなせば有意義であることは間違いないが、ナビの設定のための経路が音声入力、AI(人工知能)によるエージェント機能、そしてオペレーターサービスといくつもあり、入り口も別だったりして、まだ使い勝手は交通整理ができていない。直観的に使えて、触れること自体が喜びになるインターフェースが欲しい。

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そんなわけで新型クラウン、これまでとはまるで別物と言える進化に、初めて触れたときには感動、感慨すら覚えたが、デザインと同様、案外すぐに馴染んでしまったというか感動が薄れてしまった。理由はすぐに理解できた。クラウンとしては劇的な進化だが、客観的に見れば、これでようやく普通のクルマになったに過ぎないからである。

やっとユーザーと正面から向き合ったデザインやパッケージングが提示され、やっと普通に気持ち良い走りを手にした。そして、やっと国産乗用車の先鞭をつけたクルマにふさわしい先進性を取り戻したのが新型クラウンであり、それはつまり革新というより本来居るべき位置に戻っただけだと言うべきだろう。この先に、味だ深みだというところが深化してきたら、そのときこそが本当の復権、復活である。これは、もちろん前向きなエールのつもりだ。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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