「70年ぶり大改革」で日本漁業は復活するか

過去30年で生産倍増、世界の漁業は成長産業

大東文化大学の山下東子教授(水産経済学)は「IQが資産化し、既得権益化するため、初期配分や取り扱いには慎重さが必要」と指摘する。水産資源は国民共有の財産と考えられているが、漁船ごとにIQが与えられると、IQは土地と同様に個人所有資産としての性格が強まる。IQは過去の漁獲実績などを考慮して国が割り当てるが、最初の配分時に漁業者間で利害が対立する事態も想定される。IQは漁船の譲渡と併せて移転可能となり、漁船のトン数規制も撤廃されるため、規模の格差も拡大しそうだ。運用にあたっては、透明性や公正性をどう担保するかが課題となろう。

もう1つの柱である沿岸漁業権は、現状、都道府県が地元漁協などに最優先で与えている。外部の企業が漁協に加入せずに養殖を営むには、地元漁協などが名乗りを上げない空き水域のあることが条件となる。参入できたとしても、5年後の免許更新時に地元漁協が申請すれば権利を失う。

改正法では、漁業権付与の際の優先順位を廃止する。これに代えて、既存の漁業者が水域を「適切かつ有効に活用」している場合は継続利用を優先し、それ以外の場合は地域の水産業の発展に最も寄与すると認められる者に漁業権を与えることになった。

水産予算は7割増の3000億円

この「適切かつ有効に活用」という表現が曖昧なため、国会でも野党の質問が集中した。水産庁の長谷成人長官は「漁場の環境に適合するように資源管理や養殖生産を行い、将来にわたり持続可能的に漁業生産力を高めるように漁場を活用している状況」と答え、都道府県がそれを判断する際の技術的基準は、国が今後決めていくと説明した。野党からは「肝心な判断基準を今から決めるとは何事だ」と批判が上がった。

ただ、「単に生産額などで機械的に判断するのではなく、常識に鑑みてまじめに取り組んでいる方は尊重されるべき」(長谷長官)とも説明しており、基本的に既得権は優先される見通し。一方、「後継者が減って漁場が空いてきている地域があるのも事実。漁場の有効利用の取り組みを積極的に支援していきたい」(同)と、空き水域の拡大に伴い企業などの新規参入を促す方針だ。

漁業者にとっては、漁業権の継続利用が優先されることは安心材料となる。全国漁業協同組合連合会の岸宏・代表理事会長は「漁業者・漁協がこれまで果たしてきた役割や、多面的機能の位置づけが十分に反映されたことを評価する」との談話を発表した。国の2019年度水産予算が概算要求で今年度当初予算比7割増の3003億円となり、資源管理強化に伴う減船、休漁、減収に対する支援に加え、沿岸漁業者の企業との連携事業や漁船・機器導入に対する支援、外国漁船対策などに手厚い予算が組まれたことも評価されたとみられる。

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