「70年ぶり大改革」で日本漁業は復活するか 過去30年で生産倍増、世界の漁業は成長産業

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一方、企業サイドはどうか。クロマグロやブリなどの養殖業を国内で展開する大手水産会社に聞くと、今のところやや冷めた受け止め方が多い。

マルハニチロの関係者は「法律が改正されても既得権が優先されるので、実態として大きく変わらないのではないか。仮にいろいろな漁場が開放されても、自然条件などで養殖に向いた優良な漁場はあまり残っていない」と話す。日本水産は「まだ法の中身を見極める必要があるが、ドラスチックに変わるものではないのでは」と語る。愛媛県でクロマグロ、鹿児島でウナギを養殖するヨンキュウも「企業参入が促進されれば前向きに評価したいが、今後決められる細かいガイドラインを見ないと何とも言えない」と言う。

ただ、これら大手が養殖業を成長事業として強化しているのは事実。マルハニチロ、日本水産、極洋は完全養殖クロマグロの出荷を本格化しつつあり、日本水産がマダコの完全養殖に取り組むなど、魚種の拡大や高度化も進んでいる。成長の壁となっているのが、漁場が限定されていることだ。これまで大手各社は漁協に所属する企業から事業を譲受するなどして養殖業を行ってきたが、将来的には漁協に入らずとも空き水域が出た際の漁業権獲得の可能性が高まる。事業拡大にフォローの風であることは確かだ。

参入機会をうかがうのは大手企業だけではない。地元の水産加工会社や商社、建設会社など異業種の中小企業、若手経営者のベンチャー企業、さらには外資系企業が規制緩和の進む養殖業や定置網漁業に乗り出すケースが増えるかもしれない。

広がるサーモンの養殖

近年、拡大機運が高まっているのがサーモン(サケ・マス類)の養殖だ。内陸部での養殖もあるが、海面養殖も青森や宮城、兵庫、福井、香川など全国各地に広がっており、こうした「ご当地サーモン」が今や100種を超えるといわれる。民間企業が地元の漁協や漁業者と共同で行っているケースが多い。

サーモンはすしネタや刺身用として人気が高いが、国内消費量の9割方はまだノルウェーやチリからの輸入品が占める。鮮度のよさが魅力の国産養殖物の生産が増えれば輸入品を代替でき、将来的には海外への有力な輸出商材ともなりうる。消費量拡大が続く海外への輸出戦略は、ほかの魚種も含めて今後ますます重要になってこよう。

企業が参入する際に大切なのは、地元の十分な理解と合意を得ることだ。日本水産学会は意見書の中で「民間企業は短期利潤を重視する傾向が強い」とし、「(参入企業によって)生み出される富が適切に地域内に循環する仕組みや、収奪的・環境破壊的な漁場利用を防ぐ仕組みが不可欠」と指摘している。地域の水産業発展への寄与という観点で参入者を選定する都道府県知事の目利き力や調整力も問われることになる。

まとめると、改正法は資源管理強化と成長産業化の両立という方向性はよしとしても、その実効性を高め、弊害を減らすには解決すべき点が多い。現場や国民の理解は十分とはいえず、国会審議も拙速の感が強い。長期的には天然の水産資源が回復に向かい、養殖業などで企業参入が増えて生産性が高まることで、漁業の衰退に歯止めがかかる可能性は十分ある。だが成長産業化するとなると、国民の魚離れの抑止や和食とセットにした輸出の拡大などハードルはそうとう高いといえそうだ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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