ヤマト、「午後出社運転手」の採用進まぬワケ 現場改革の切り札のはずだが、実態は厳しい

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ヤマトの改革は少しずつ前進している。2018年4〜9月のフルタイム社員の総労働時間は平均1209時間と前年同期よりも62時間(4.9%)減少した。荷物数が前年比6%減となったことが大きい。アンカーキャストの導入も寄与し始めている。

ただ、セールスドライバーからは待遇面で不満の声も聞かれる。今期は運ぶ荷物の数が減ったため、給料の2〜3割を占めるインセンティブ(歩合給)が減っているからだ。「『もっと稼ぎたい』と、ヤマトを辞めて完全成果主義の個人事業主に転身する社員もいる」と複数の業界関係者は口をそろえる。

ヤマトは今2019年3月期の宅配便の平均単価は662円と前期比約11%を見込む。荷物量の9割を占める法人荷主向けの運賃引き上げが進んでいるからだ。荷物量は約2%減の計画だが、単価増がこれを補って余りある。その結果、ヤマトホールディングスは今期の営業利益を期中に2回上方修正し、660億円(約85%増)とV字回復を狙う。2020年3月期には宅配便の数量を本格的に回復させる計画だ。

アンカーキャストの成否が改革の焦点に

しかし、アンカーキャストの生産性が高まらなければ、セールスドライバーの負荷が再び高まることは必至。セールスドライバーは配達量が増えればインセンティブは増えるが、労働時間も再び増えかねない。

JPモルガン証券の姫野良太アナリストは「アンカーキャストが軌道に乗らなければ、外注コストが再び増え、値上げによる業績改善効果が損なわれかねない」と指摘する。数量を回復させつつ利益成長を持続できるか。ヤマトの改革の成否はアンカーキャストがカギを握っている。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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