「勘と経験」バカにする人が見逃す仕事の本質 デキる人は「論理」だけでは動かない
こうした手法を否定するわけではない。しかし、長年のビジネス経験から言えるのは、ビジネススクールの教科書に書かれている知識だけでは不十分であるということだ。
優れた経営者は成功確率が低い道でも選ぶ
経営コンサルタントという仕事柄、実にたくさんの経営者、あるいは経営幹部と接してきた。その数は優に1000人を超える。そうした中で、成功している経営者、とりわけオーナー企業の経営者に特徴的な行動パターンがある。
それは一見、思いつきにしか見えない意思決定や行動をとっており、もし私がコンサルタントとして事前にアドバイスを求められたら、理屈から考えてうまくいかないからやめたほうがよいとアドバイスするようなことに挑戦している。別の言い方をすれば、ロジカルシンキングで考えると成功確率が低いのでやめたほうがいいという道を選んでいる。
たとえば、ユニ・チャームの創業者である高原慶一朗氏は、まだ会社の規模が小さく女性向けの生理用品が主力事業の時代に、その何倍もの市場と考えられる子ども用の紙おむつの市場に後発で参入した。体力以上の新規投資を必要とする事業は失敗すれば会社が潰れる。当然、経営幹部のほとんどが反対したそうであるが、彼は絶対成功するからと言って幹部の反対を押し切って参入したと聞く。
そのとき、彼の頭の中には女性用生理用品だけでは市場は頭打ちになる、紙おむつは当時の日本ではまだ新しい市場で、P&Gがほぼ市場を独占していたが、今ならまだユニ・チャームでも間に合う、と考えたそうだ。
しかし、冷静に考えれば数百倍の規模があるグローバル企業P&Gに知名度・資本力・開発力……など多くの面で劣るユニ・チャームが勝てる可能性は高くはない。もし、私がそのとき助言を求められたら「そんな無謀な戦いはやめたほうがいい」とアドバイスしたに違いない。
しかし、彼は挑戦した。失敗のリスクは考えなかったのかという問いかけには、「まったく考えなかったわけではないが、それよりチャンスにかけてみたいと思った」と答えたそうだ。
結果は知ってのとおり、国内ではP&Gというグローバル企業や花王というエクセレントカンパニーを相手にして勝利を収め、紙おむつはユニ・チャームの主力事業に育った。
それではユニ・チャームの紙おむつ事業参入は本当に無謀な挑戦だったのであろうか。
実は、よくよく聞いてみると「なるほど」という話が耳に入ってくる。というのも、当時ユニ・チャームは次の成長の柱を考えていて、新規事業を必要としていた。その中で、主力の生理用品のユーザーが女性であることから、女性を軸にすれば、紙おむつの事業も企業の事業領域としてはまとまりがある。
生理用品もおむつも女性が購買の意思決定者である、あるいは、両製品とも「不快」を「快」に変えるという共通項がある。もちろん、これらは後づけの理屈かもしれないが、社長の「これはいける」という直感が、後から考えると理にかなっていたということになる。
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