フランス「格安」高速列車、LCCではない真の敵 「身内」のTGVと競合してでも他社参入を牽制

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一方、テッロにも懸念材料がある。オープンアクセス法施行後、各国の鉄道インフラ会社は列車運行事業への参入を表明する企業に対して、表向きは平等に参入を認めなければならない。しかし実際のところ、これまで新規参入業者がすんなりと参入できた例は少ない。

ミラノ中央駅に停車するイタロ。運行開始当初は、中央駅への乗り入れを認められなかった(筆者撮影)

参入に手こずった例が、イタリアの高速列車事業へ参入したNTV社の「イタロ」だ。同社は2006年に発足し、当初は2011年に運行開始する予定だったが、イタリアの鉄道インフラ会社RFIは運行許可を出さなかった。許可申請までのプロセスが複雑で間に合わなかったことに加え、イタロで使用するETR575型車両のテスト走行中に謎の振動が記録されたというのが理由だったが、NTV社はRFIによる不当な妨害だと訴えた。

RFIは旧国鉄であるイタリア鉄道グループで、イタロのライバルとなる高速列車「フレッチャロッサ」を運行するトレニタリア社も同グループであることから、何かと理由を付けて妨害したというのが真相のようだ。

結局、イタロは2012年4月に運行を開始したが、当初は主要ターミナルへの乗り入れは認められず、ミラノはガリバルディ駅、ローマはティブルティーナ駅という、主に近郊列車が乗り入れるサブ駅からの発着を余儀なくされた。しかし、その後は主要駅への乗り入れを認められ、現在はフレッチャロッサと同じ区間を運行している。

予定通り運行できるのか

こうした「元国鉄」の鉄道インフラ会社から不当な理由を付けられて参入が遅れたり、制限が付けられたりした例は、イタリアだけではなくほかの国でも発生している。テッロがフランス国内での高速鉄道事業へ参入するとなれば、同じような妨害を受ける可能性がないわけではない。

フランス国内を走る他国の列車には、すでにドイツ鉄道の「ICE」やベルギーの「タリス」などがある。だが、ICEはフランス国鉄のTGVとの共同運行であり、タリスはフランス国鉄が株式の60%以上を保有する会社だ。フランス国鉄としては、まったくのライバル関係となるテッロの参入に心穏やかでいられるはずがない。

テッロの参入に対するフランス国鉄の対抗策はもちろんだが、そもそもテッロが参入すると表明した2020年に、予定どおり運行を開始できるのかも気になるところだ。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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