珍駅名「高輪ゲートウェイ」をMBA的に考える 「問題解決アプローチ」で解決策を提示

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しかし公式には「グローバルゲートウェイ品川」のプロジェクト名以外に、今回の駅名関係で何かが決定している様子はありません。であれば、JR東日本がプライドを捨て、物事を前向きにとらえようとするのであれば、意外に「呼びやすく品格を備えた名前に変えよう」ということを「あるべき姿」にすることは不可能ではなさそうです。

つまり、「あるべき姿」を重要なステークホルダー間ですり合わせることは可能と言えそうです。

駅名変更を妨げているものは何か?

一般市民にとって駅名変更を妨げるものは特にありません。そこでここから先はJR東日本側の話になりますので、推定になってしまうことをまずはお断りしておきます。またここでは、この件に関して特別な利害関係はないものとして話を進めます。

駅名変更を妨げる理由として1つあるのは、サンクコストへのこだわりかもしれません。サンクコストとは、すでに発生してしまった費用です。本来は将来の意思決定に影響しないはずなのですが、意思決定が遅れれば遅れるほど、サンクコストが積み上がり、後にはひきにくくなります。その意味では、やるならなるべく早くやるほう方がいいと言えます。

また、社内のVIPのプライドなどが邪魔をしている可能性もあります。仮にそうした人物の肝煎りで命名したのだとしたら、それを取り下げることは気が進まないでしょう。下手をすると彼/彼女の責任問題にもなりかねません。

誰かが「首に鈴」をつける必要がありますが、そのときには相手が「しかたがない」と思えるような大義が必要になります。「ダサいから変えましょう」では、ますます態度の硬化を招きかねません。

では大義となるのは何でしょうか? それはやはり一般市民の声でしょう。市民が大きな声を上げれば、「世の中の声はこうなんですから、やはりここは英断が必要では」などといった説得はしやすくなります。本の中でも紹介している『ヤル気の科学』(文藝春秋)の著者、イアン・エアーズの言葉を借りれば「周りからの評価を利用せよ」です。

「東京という国際都市だからこそ、日本らしさを出しましょう」「企業の社会的責任は重いですよ」「早く変えたほうが、むしろ○○さんの株は上がります」といった攻め方も有効かもしれません。同時に、責任問題については、限りなく不問とするなどの根回しも必要となるかもしれません。

実際の意思決定メカニズムがどうなっているのかはわかりませんが、1人ではモノを言えないときでも、数人の実力者が集まれば何とかなるものです。なかなか理詰めで答えが出ないときがリーダーシップの出番です。ぜひ勇気のある人に立ちあがってほしいものです。

そして、それを後押しするのは結局ユーザーの声です。これだけネットが発達した現在、TwitterやYouTubeなどを使えば、もっとネットでの動きを活性化することはできるでしょう。

そのためには、ここでもリーダーシップをとる誰かの存在が必要となるのです。その際には、JR東日本を責めるトーンではなく、一緒によい東京を作ろうというスタンスでいくことが効果的でしょう。プライド等が関わる問題ほど、理屈だけではなく、メンツや立場への配慮が必要になることを忘れてはいけません。

嶋田 毅 グロービス経営大学院教授、グロービス出版局長

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しまだ つよし / Tsuyoshi Shimada

グロービス経営大学院教員、グロービス出版局長。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。著書に『MBA 100の基本』『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』『KPI大全』(以上東洋経済新報社)、『グロービスMBAミドルマネジメント』(ダイヤモンド社)など。経営戦略、テクノベート・ストラテジー、研究プロジェクトなどの講師を務めるほか、各所で講演なども行っている。

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