相鉄、平成30年間をかけた高架化「最後の夜」 一晩で踏切なくす「人海戦術」の切り替え工事

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さらに、工期も当初予定より延びた。2002年に都市計画決定された当初の事業期間は2012年度までだったが「工事中の騒音振動に対する環境対策やバリアフリー化などの追加工事などがあったため」(横浜市の担当者)だ。事業費も、当初の約379億円から約550億円まで膨らんだ。

下り線高架化後の踏切の様子。閉鎖時間が短縮され「開かずの踏切」は解消された(記者撮影)

一方、当初は基礎部分から造り直す計画だった天王町駅については既存の高架駅の基礎や柱を一部活用する形に設計を見直し、工期の短縮と費用の削減を図った。

こうして2017年3月、まず下り線の高架化が完成。これによって星川―天王町間の踏切遮断時間の平均値は最大30分となり、渋滞の平均距離も最長275mから90mまで短縮。「開かずの踏切」はひとまず解消された。そして今回の完全高架化で、同区間の7カ所の踏切は立体交差化された。

高架下や周辺整備はどうなる?

構想から30年を経てついに完成した高架化。だが、相鉄や沿線の環境はその間に変化が続いた。近年は再び微増傾向だが、1995年度に約2億5000万人だった相鉄の輸送人員は、2017年度には約2億3173万人に減少。横浜市の人口も、2019年をピークに減少に向かうと推計されている。

上り線の高架化直前、地上の旧線を走る列車(記者撮影)

「踏切の解消は街の発展に寄与する。少子高齢化の進展による都市間競争の時代を踏まえ、市としては安心して住んでもらえる街にしていくべきだと考えている」と市の担当者は語る。渋滞の解消は大きな成果だが、今後は線路で分断されていた街の一体化や魅力向上も重要なテーマだ。

連続立体交差の事業期間は2021年度まで。今後はまだ完成していない駅舎の工事とともに、高架下や線路沿いの歩道、星川駅前広場の整備などが行われる。「住みやすい沿線のいちばんになりたい」とのテーマを掲げる相鉄。長年を費やした高架化が地域の魅力向上につながるかは、今後の周辺整備がカギとなるだろう。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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