記者も悩む「イエメン」あまりにも悲惨な現状 ジャーナリズムにできることは何なのか
イエメン社会は内戦によって荒廃している。アメリカが支援するサウジアラビア主導の連合軍による空爆で、民間人が何千人も殺害され、さらに大勢の人々が住む家を追われた。だが大半の国民にとって、内戦はじわじわと命に襲いかかる。
爆弾攻撃で橋や工場が吹き飛ばされ、職が奪われると、貨幣の価値が崩壊し、物価が高騰する。すると人々は肉や野菜を買うことができなくなり、外国からの食糧支援に頼るようになり、最悪の場合は、煮た葉を食べてしのぐことになる。
ヒッチハイクをしていた若い男女
タクシー代のように、わずかだが命に関わるものが手に入れられなくなるのだ。
アマル・フセインが治療を受けていたアスラムの小さな病院からの道すがら、道端でヒッチハイクをする若い男女を見かけた。乳児を抱えている。私たちは車を止めて、彼らを招いた。
父親はカリル・ハジ。黒いマントを着た妻のハンナが抱いているのは生後9カ月の息子ウェジダンで、栄養失調の治療を受けていた病院を出たばかりだった。彼らの境遇はよくあるものだった。サウジとの国境に近い自宅は爆撃を受けたため、アスラム近郊に小さな家を借りた。ハジはバイクタクシーの運転手をしたり、木材を拾って市場で売ったりして稼ごうとした。
しかし、十分な収入を得ることができず、また、自宅に戻る途中でフーシ派の兵士からこの地域が軍事区域だと告げられた。彼らの食事はパンとお茶と、ハラスという地元に生育するツル性の植物になった。ハンナは2人目の子どもがお腹にいて、妊娠4カ月だった。
ハジは哀れみを求めてはいなかった。多くの人が同じような苦労をしていると、彼は言う。「金を稼ぐためなら何でもする。状況は非常に困難だ」。
道の分岐点で彼らは車を降り、礼を言って歩き出した。私はポケットを探り、彼らを呼び止めた。15ドルほどの価値のイエメンの札束を取り出し、ハジの手の中に押し込んだ。長い目で見ればそれは何の役にも立たないように思えた。彼らはそれで何を買うことができるだろう?
ハジは笑顔でそれを受け取った。彼らはホコリが舞う道をゆっくりと歩き、避難所に向かっていった。衰弱したわが子をぎゅっと抱きしめながら。
(執筆:Declan Walsh、翻訳:中丸碧)
©2017 The New York Times News Services
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