富谷市の生協「一般家庭に水素を宅配」の理由 配送車で「水素吸蔵合金カセット」を運ぶ

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そこでこのプロジェクトでは、水素を小分けして小型の水素吸蔵合金カセットに詰めて運ぶ。これであれば、ほかの商品と一緒に配送車に積むことができる。カセットは燃料電池に装填する仕様になっており、利用先では燃料電池に取り付けるだけでよい。一般家庭でも、安全で簡単に取り扱いできる。使い終わったカセットは、配送車で持ち帰り、再び水素を充填して何度でも使える。

地産地消の低炭素まちづくりを全国に展開

実証事業は2020年3月で終了するが、富谷市では利用者を増やして事業を継続したい意向だ。また、将来的に、配送車に燃料電池トラック(FCトラック)を利用する構想も描いている。

さらに今後、実証プロジェクトで得た知識・ノウハウを活かして、「富谷モデル」サプライチェーンを、宮城県全域、さらには全国に広げていきたいとしている。

今後の普及拡大を考えた場合、課題となるのが、CO2フリー水素製造のコスト高と、水素吸蔵合金が重いため輸送効率が悪いことだ。

後者については、実証段階では利用者数が少ないので、カセットに小分けして運べば問題ないが、利用者が増えてくると、重量がかさみ一般商品の配送にも影響が出てきかねない。

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現在実用化されている水素吸蔵合金の重量ベースでの吸蔵量は、高いものでも3%程度だ。重量比で6%を超えれば、燃料電池自動車(FCV)の燃料タンクとしての利用も考えられる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「水素利用技術研究開発事業」では、FCV向けに軽量で貯蔵密度の高い新規合金材料の研究開発が進められているが、そうした合金が開発されれば、カセット方式の輸送効率もグンと高まる。

前者のコスト高は、水素エネルギー全体に共通する課題だ。コスト高解消につながる1つのヒントは、10~11月に九州電力管内で実施された太陽光発電の「出力制御」にある(「九州「太陽光で発電しすぎ問題」とは何なのか」)。出力制御によって無駄となる余剰電力を活用できれば、大幅にコストを削減することも可能だ。

太陽光発電の比率の高い西日本や、風力発電のポテンシャルの高い北海道・東北などでは、余剰電力や不安定電力が今後大きな問題となってくる。余剰電力を使った水素製造と、地域密着型のサプライチェーンを組み合わせることで、地産地消の低炭素まちづくりが進むと同時に、余剰電力問題解決の一助となることも期待できる。

今回の実証プロジェクトは、規模は小さいが、水素社会の実現に向けた大きな一歩となるかもしれない。

西脇 文男 武蔵野大学客員教授

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にしわき ふみお / Fumio Nishiwaki

環境エコノミスト。東京大学経済学部卒業。日本興業銀行取締役、興銀リース副社長、DOWAホールディングス常勤監査役を歴任。2013年9月より武蔵野大学客員教授。著書に『再生可能エネルギーがわかる』『レアメタル・レアアースがわかる』(ともに日経文庫)などがあるほか、訳書に『Fedウォッチング――米国金融政策の読み方』(デビッド・M・ジョーンズ著、日本経済新聞社)がある。

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