「学歴を低く」偽った人が退職させられたワケ 大卒を高卒と詐称の神戸市職員が懲戒免職に

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学歴を偽ったことが企業秩序に実質的に影響がなかったという場合は、解雇無効とされることもあります。

この点、実例としては、大卒と高卒以下の学歴で、採用・労働条件・昇進・加入する労働組合に至るまで明確に学歴別の人事制度を敷いていた会社で、大卒者が高卒であると申告して入社をしたケースにおいて、裁判所は解雇を有効としました。(三菱金属鉱業事件 東京地裁 1971年11月25日)

これに対し、先ほどの「三愛作業事件」においては、学歴別の労務管理がされていたわけでもなく、判決文でも「職種が港湾作業という肉体労働であって学歴は二次的な位置づけである」として、経歴詐称自体は問題であるものの、解雇をしなければ企業秩序を維持できないほどのものではないとして、このことも解雇無効の判断の根拠の1つとなりました。

職種によってはアウト

第3は経歴詐称による顧客や社会に対する影響です。

企業が営んでいる事業内容によっては、学歴が重要な影響を及ぼす場合があります。学校の教師、塾の講師、経営コンサルタントなどは、指導を受ける顧客側にとっても本人の学歴は重要な判断要素になります。

実際の裁判においても、高校中退を高卒と偽って自動車学校に採用された指導員を、「自動車教習所は(中略)指導員の学歴もその職務についての適格性及び資質等を判断するうえで、重大な要素の一つであると認められる」として、学歴詐称で懲戒解雇したことを有効としている判例があります。(正興産業事件 浦和地裁川越支部決 1994年11月10日)

これら3つの観点を踏まえ、今回の神戸市経済観光局の男性事務職員の事例を考察してみましょう。

まず、第1の観点である学歴を採用基準にしていたかどうかについては、冒頭に引用した報道のとおり「大学を卒業していたのに採用試験の際に履歴書には高卒と記載し、高卒以下に限定されている区分を受験して合格」ということですから、学歴が採用基準になっていたことは明白です。

次に、第2の観点である企業秩序の維持に対する影響ですが、神戸市のホームページ内の「神戸市職員採用試験(選考)に関するQ&A」というコンテンツを見ると、「神戸市では、学歴別に採用試験を実施しており、大学院卒、大学卒の方は大学卒の区分で、高専・短大卒の方は高専・短大卒の区分で、高校卒(中卒含む)の方は高校卒の区分で受験していただきます。

したがって、大学卒の方が高専・短大卒、高校卒の試験を受験するなど、最終学歴と異なる学歴区分で受験することはできません。(A6)」という記載があります。

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