「お金持ちは年金をもらえない」という逆差別 数千万円も払って「捨てろ」はおかしくないか
Aさんの役員報酬は、現在も80万円と変わりません。この金額は65歳までの在職老齢年金の判断基準28万円も、65歳以上の判断基準となる46万円もはるかにオーバーしますので、老齢厚生年金は全額支給停止です。
一方、厚生年金は70歳まで加入しますから、60歳以降もAさんは厚生年金保険料を負担します。先ほど同様18.3%の厚生年金保険料率と考えると、10年間でAさん個人が負担する保険料はさらに680万7600円追加されます。60歳までに負担した分と合算すると3113万6160円、会社負担分も合わせると5836万6560円です。
70歳まで支払った保険料は、Aさんの老齢厚生年金の「権利の年金額」も引き上げます。10年でさらに40万7786円加算されるので、今や老齢厚生年金は184万1616円です。
2004年までは、70歳で厚生年金の加入が終了すると、そこで在職老齢年金も終了しました。本来は晴れてここからは社長業を続けながら、老齢厚生年金を受給することができました。それが現在は、在職老齢年金の年齢上限がなくなりましたので、厚生年金保険料の支払いがなくなっても、会社から役員報酬を受けている限り、老齢厚生年金は受給ができません。つまり、生涯現役であれば、ずっと老齢厚生年金は受け取れないのです。
受給できない金額分はせめて所得控除にすべきでないか
Aさんには奥様がいますので、仮にAさんが亡くなられると奥様に遺族厚生年金が支給されます。この額は、本来Aさんが受け取るはずだった老齢厚生年金、184万1616円の4分の3に相当する138万1212円です。しかしながら、Aさんの奥様は、Aさんとともに会社を切り盛りしてきたので、ご本人も厚生年金に加入していました。奥様はAさんより一足先にリタイアし老齢厚生年金を受給していますが、この額が遺族厚生年金より若干多いため、奥様はAさんの遺族厚生年金を受給できません。
Aさんは在職老齢年金のことはよくご存じでしたが、あらためて会社負担分も合わせた5836万6560円という数字を見つめ、大きなため息をつかれました。「法律なのでどうしようもありませんが、なんともやりきれませんね」と。
さてここまで読んできて、皆さんは、「Aさんは会社社長で、生活にも困らないのだから別にいいのでは?」とお考えになりますか。Aさんも国民として、長きにわたり国の制度を支えてきた「同胞」であると思うと、同情される方も少なくないと思います。年齢にかかわらず、能力に見合う報酬を得ることは当然と考えると、実はAさんの例は必ずしも特別なものともいえません。
在職老齢年金制度を廃止すると、年金給付額は約1兆円増えると言われるなか、この制度が本当にどこまで見直しされるのかは、わかりません。しかし、年金受給の権利を一方的に取り上げるのではなく、受給できなかった年金額は所得控除に認めるなど、せめてこれまで支払った保険料が報われる仕組みも検討されることを願っています。
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