一方で久留米市は、福岡市のベッドタウンとしての顔を併せ持つ。JR博多駅―久留米駅間は九州新幹線で最短14分、往復割引切符2460円、1時間当たり上下6本程度が走るほか、鹿児島本線の快速でも最短34分、片道740円だ。
JR久留米駅前には2010年、再開発のシンボルとなる35階建てのタワーマンションが建ったほか、多くのマンションが駅周辺に張り付き、今も増え続けている。
これに対し、西鉄久留米駅―西鉄福岡駅(天神)間は特急で32分、片道620円。特急・急行は1時間4往復ほど走っている。
かつては移動シェアの大半を西鉄が占めていたが、最近は料金だけでなく、福岡市内の行き先や時間帯によって、JRと西鉄を使い分ける市民も増えているという。
筆者は2008年、新幹線活用に関する福岡県庁主催の勉強会で講演するため、初めて久留米市を訪れた。ごく短時間の滞在で、市内を見て回る余裕はなかったが、3年後に控えた九州新幹線の全線開通に対して、会場では困惑や懐疑的な空気が広がっていた様子が印象に残っている。
心理的にも距離的にも福岡市に近すぎて、どんな対策を講じてよいかわからない、といった雰囲気だった。中心市街地から百貨店や大型スーパーが相次いで撤退し、市は苦境にあえいでいた。
空き店舗率を改善させた施策
市内の空き店舗率は2009年、26.8%と最悪を記録した。しかし、その後はぐんぐん改善していく。背景には、元気な商業者を育てながら、商業者同士、そして商業者と市民の互恵性を見いだそうと、市や商工会議所が展開してきた「久留米街元氣プロジェクト」などの施策があった。
「氣」の文字は、「気に×を付けるのでなく、気を米(こめ)る」という思いから使っているという。現在は「街なか起業家支援事業」、愛知県岡崎市が発祥の「まちゼミ」活動を採り入れた「久留米まちゼミ」、さらに「元氣な商業者を育む繁盛店ネットワーク事業」が主立った事業だ。
これらが奏功し、近年の空き店舗率は18%前後まで低下している。都市規模、さらに、近郊に県内最大級の大型郊外型店「ゆめタウン久留米」が立地している環境を考えると、10年足らずで10ポイントの回復は驚異的に見える。
その理由は何か。久留米市のまちづくりにはいくつかの特徴がある、と行徳氏は言う。
「私においしいとんこつラーメンを作れと言われても無理。しかし、とんこつラーメンでまちづくりの企画を考えることならできるかもしれない。久留米の特色は、市役所や商工会議所、土地所有者、まちづくり会社それぞれが役割を分担するフォーメーション型を採っていることです。映画に例えれば、アクターやアクトレスである商業者のほかに、脚本家や映画監督、助監督、照明係といったスタッフが要る。それを行政や商工会議所、市民ボランティア、NPO法人などが担って、初めて持続可能な中心市街地活性化事業ができる」
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