企業主導型保育所に巣食う「助成金詐欺」の闇 政府肝いりの保育園増加策には大穴があった

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「企業主導」ということであれば当然のことながら、参入する企業の経営状況や財務体質をチェックする必要があるはずだが、前出の児童育成協会関係者は「事実上、書類が右から左へ流れていっているだけ。細かいチェックはしていなかった」と明かす。

その点について、児童育成協会の窓口に問い合わせてみると、「企業主導型保育事業は、審査担当62人、監査担当18人の計80人で運営している。審査担当者の中に会計士や税理士はいない」とのことだった。立ち入り調査による指導・監査業務の実施主体は児童育成協会だが、業務の一部はパソナが受託し、パソナでは97人が監査を担っているという。

企業主導型保育事業への参入に際しては、認可保育園の申請には必要な「会社が3年以上存続していること」という縛りもなく、参入が容易になっている。となれば、ペーパーカンパニーを作ってしまえば助成を受けられる可能性すら出てくる。ところが、児童育成協会の審査担当者によると、「企業に対して決算書の提出を求めているものの、専門的な知識を持った担当者がその内容をチェックしているわけではない」とのことだ。

児童育成協会の審査担当者によると、施設については、審査担当の部署に籍を置く6人の建築士が、見積書や設計図を含む書類のほか、工事現場や建物の写真を確認する。疑義が生じた場合のみ現地へ行って確認するが、疑義が呈されない限り、現地を確認することはないという。

企業である以上、事業が破綻して倒産するリスクがあるわけだが、こうした非常事態に備えて協会がどのような対応をするのかも決まっていないという。つまり、待機児童の受け皿を名目に始まった制度にもかかわらず、受け皿となる保育園が閉園するリスクが織り込まれていないのだ。

A社の元経営者「私もいろいろ迷惑してる」

話をA社に戻そう。A社は2016年11月から2018年3月までに、整備費として、前出の園を含む7園合計で4億6000万円にも上る助成金を児童育成協会から受け取っている。にもかかわらず、園関係者は「工事は雑でひどい状態だった」と漏らす。ある園では、釘が落ちていたり、鍵が閉まらなかったりしたほか、水漏れも確認されたという。

これとは別の園でA社からの発注工事を担当した業者は、2018年6月までに工事を完了しているにもかかわらず「A社から工事費が1円も支払われていない」とため息をつく。工事費未払いまで起こしているのだ。

A社の元経営者である女性は現在、東京都内ではなく西日本にいる。電話で取材を申し込んだが、「取材に答える気は一切ありません。弁護士を通したとしても、話すことはありません。私もいろいろ迷惑してるんです。こちらに来てもらっても会う気はありません」との対応だった。

この女性はすでにA社を去っている。現在は、新たな代表のもとで民事再生が進められ、保育事業は別の教育関連企業に譲渡されたことから、保育園の運営を継続できる見通しがついているという。

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