新しいアイデアを生む人の「積み上げ」の習慣

「量が質に転化する」境目はきっとある

読書も、映画鑑賞も、趣味の作品を作り続けることも、どれも知的な積み上げになりえます。ここで、代表的な例を知的生活のヒントとして紹介しましょう。

最初の例は読書です。読書の際にノートをつけ、読書体験や印象を書き残している人もいらっしゃると思いますが、私の場合、読んだ内容それ自体よりも、あとで利用できる「引用のための文」として記録することを重視しています。

ビジネス書も、海外文学も、そして難しい専門書も、1冊の本を10~20ほどの引用文にするのです。

最初こそ、意味のある、最も重要な部分を引用として選ぼうと意識していましたが、しだいにそうした部分はほとんど自明であることがわかってきました。たとえばKindleで本を開いた場合、ほかの多数の読者がハイライトした部分が下線で表示されますが、その本の重要な主張や、多くの人が感動している箇所はおおむね共通していますし、「読んでいればわかる」ことがよくあります。

そこで、そうした要点ばかりではなく、自分が勝手に選んだ基準で引用を収集してゆくということをいつしか始めました。「著者が未来の予測をしている箇所」「作品に登場する密室」といった恣意的な基準で、いわばコレクションをしはじめたのです。

こうした収集をしばらく続けると、面白い熟成が始まります。ちょっと意地の悪いコレクションですが、私は10年前のビジネス書で著者が未来を予測している引用を集めてコレクションにしており、それが現在実現しているかを調べたリストを作ったことがあります。本の内容をその後の歴史のなかに置いて比較することで、10年前の予測から学ぶことができるわけです。

音楽や映画も「積み上げる」

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音楽や映画といったコンテンツも、時間とともに積み上げを行うのに最適なメディアです。舞台やコンサートは現場に足を運ばなければいけない分だけ、それを人並み以上に積み上げることができるのは一部の人に限られますが、動画や音楽についてはストリーミングサービスが発達してきたおかげで、これまでになく幅の広いコンテンツを網羅的に楽しむことが可能になっています。

コンテンツをいつでも手元に引き寄せることができるということは、たとえば内容を引用したいときにすぐに確認できるということでもあります。「あの場面で、あのセリフはどうなっていただろうか?」といった、かつては手間のかかった調べものが、飛躍的にラクに実現可能になっているのです。

ストリーミングサービスの特徴を利用すれば、もう一歩進んだ視聴の仕方も可能になります。たとえばクラシックのある一つの交響曲でも演奏された年代や、演奏する交響楽団によってさまざまな版(コンテンツの種類)があります。それぞれについて、専門家である音楽評論家が、膨大な視聴の経験に基づいて批評を行っているので、それを信頼してどれを聞くかを決め、購入して視聴してきた人も多いと思います。

しかしSpotifyなどの音楽ストリーミングサービスを利用すれば、自分でさまざまな種類を視聴することが可能です。

たとえば、Spotifyでベートーヴェンの交響曲第5番で検索すると、さまざまな時代の、さまざまな指揮者の、あらゆる交響楽団の、あらゆる版のアルバムが何百とヒットします。同じ交響曲でも指揮者や時代の違いによって異なる味わいを、専門家同様に確認しつつ聞き分けてゆく楽しみ方が生まれます。第5番を比較するだけでもおそらく数年はかかるでしょうし、特定の指揮者だけ、特定の交響楽団だけといった組み合わせを楽しむといった、およそ無限の切り口があるといえます。

こうしたことが可能なのも、SpotifyやNetflix、アマゾンプライム・ビデオといったサービスに定額で視聴することができる膨大なコンテンツが集積しており、それが簡単に検索可能だからです。コンテンツ検索で自分なりの方法で串刺しにすることで、新しい境地を簡単に開くことができるわけです。

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