高速鉄道めぐる日本とインドの「同床異夢」 輸出と現地生産、どちらがベストシナリオ?

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「メイク・イン・インディア(インドで作ろう)をぜひ実現したい」。IHRA国際フォーラムにおいてインド鉄道省・鉄道委員会で車両担当委員を務めるラジェシュ・アグラワル氏が壇上から訴えた。インドのモディ政権は外国資本を誘致し、国内の製造業を発展させるメイク・イン・インディアというスローガンを掲げている。日本政府もジェトロ(日本貿易振興機構)を活用した中小企業のインド進出支援など、さまざまな協力を約束している。

新幹線方式による高速鉄道プロジェクトもその1つに位置づけられる。インドは鉄道総延長6万3000kmという世界有数の鉄道大国。鉄道関連産業の存在感も強く、アグラワル氏は「インドには鉄道車両を製造できるメーカーが6社あり、全国各地に多数存在する製造拠点の従業員を合計すれば15万人に達する」と胸を張る。

東北新幹線の主力車両「E5系」。インドのムンバイ―アーメダバード間を走る高速鉄道車両のベースになる(撮影:尾形文繁)

ムンバイ―アーメダバード間を走る高速鉄道車両は、東北新幹線「E5系」をベースに高温対策など現地仕様を施したものとなる。高速鉄道セミナーで講演したインド高速鉄道公社のブリジェシュ・ディグジット部長は、「設計は最終段階にある」という。

開業時に投入されるのは1編成につき10両を24編成で240両。その後、利用者の拡大に合わせ、順次車両を投入する。30年後には1編成につき16両を71編成、つまり1136両の車両が投入される計画だ。仮に1両当たりの製造価格を3億円とすれば、車両だけで3000億円を超える大きなビジネスとなる。

高速鉄道車両の輸出を狙うインド

今回の路線運営が軌道に乗った後は、デリーやコルカタなど主要都市を結ぶ複数の路線において事業化がスタートする。日本以外の国が受注する可能性もあるが、ディグジット部長は、「フランスやドイツがやることになったとしても、車両はE5系の技術を使って開発したい」と言い切る。

また、アグラワル氏は「日本の技術は割高と言われているが、インドで製造すれば中国よりも安くできる。また、インド製は中国製よりも信頼できると考えている国が、中東やアジアに多い」と言い、将来の高速鉄道車両の輸出を見据えている。

安倍首相は起工式の場で「日本はメイク・イン・インディアにコミットしている。日本の高い技術とインドの優れた人材が協力すれば、インドは世界の工場になる」と発言。このため、日本側の関係者は一様に「メイク・イン・インディアは守る」と口をそろえる。

ところが新幹線をインドで造るという構想は、今のところ絵に描いた餅だ。「技術の蓄積がないと新幹線の車両は造れない」と、JR東日本の西野史尚副社長は説明する。同社は「少なくとも当初、導入される車両については、日本で製造したものが持ち込まれる予定だ」としている。

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