加藤:スマホやタブレットが登場して、読むという行為が、紙の本から拡大したと思います。よく活字離れと言う人がいますが、僕はそう思わない。メールとかSNSだとか頻繁に見ているわけで、実は今がいちばん文字を読む時代ではないでしょうか。よく「本が売れない」とか言われますけど、それはWEBという、今、人がいちばんよく見ているフィールドで売っていないからだと思います。
Kindleも出てきましたし、僕自身も電子書籍の編集にかかわっていろいろ試してみたのですが、もっとWEBのよさを生かせないかと考えるようになりました。電子書籍はいい面もありますが、基本は紙の本の内容をそのまま電子版に流し込んだパッケージになっているので、口コミは書き込めないし、情報のシェアもしにくい。それってWEBで情報がオープンになっていく流れとは違うと思います。
そもそも本の誕生って、紙が作れるようになったことで、それ以前の口伝とか石盤と比べて、情報が圧倒的にオープンになったわけですよね。つまり紙の本というものが、革命的な情報プラットフォームだったからこそ急速に広まっていったし、出版社も儲かった。当時の出版社というのは、今のITベンチャーと同じ状況ですよね。
それが今度は、WEBというさらにオープンなプラットフォームが誕生した。読者がそこに流れていくのは自然じゃないですか。
仲:なるほど、電子書籍でもいろいろ試したとのことですが、試してみてそれに気がついたのでしょうか。
本の「影」は電子書籍でも必要なのか?
加藤:そうです。価格帯を変えたり、売り方を変えたり、それからいかにページをスムーズにめくれるかといった、ユーザー・エクスペリエンスを高める画面づくりについても、ずいぶんエンジニアと一緒に考えましたよ。おかげで、『もしドラ』は紙の書籍も、電子書籍もどちらも売れました。ですが、電子書籍に挑戦をしていたときに、いろいろなことに気づかされました。
当時、iPad版についても試行錯誤していたのですが、たとえば、電子書籍をを本らしく見せるためにページの真ん中に「影」をつけるでしょ? デザイナーと話をしていたときに、そもそも「影って必要かな?」という話になったのです。そこから「そもそも縦書きである必要ってあったっけ?」「もしかしたら本のような見開きのスタイルでなくてもいいんじゃないの?」というふうに話しに広がって行って、結果的に「あれ? もしかして、それならWEBのHTMLでいいのでは……?」という意見になったんですよ(笑)。
それで、電子書籍を作るのではなく、電子コンテンツのプラットフォームを作るべきだと思い始めたのです。
仲:それで、起業しようということになって会社を辞めたんですね?
加藤:いや、そのときは正直、自分が起業するということではなく、そういうことを誰かやってくれないかなって思っていましたね。結果的には、自分で起業しましたけど、なんでなんでしょうね(笑)
考えてみると、僕、辛抱がきかないタイプなんですよね。だから、ミリオンセラーを作ったら編集者も辞めようって思っていたんです。ミリオンセラーを出したときに、自分の10年後を考えて、このまま会社で頑張っていく人生と、独立して新しいことを頑張っていく人生とどっちがいいかと思って、後者に魅力を感じました。
ちょうどそんなときに、この電子化の流れがあって、じゃあそこでやってみようかなと思ったのです。
仲:じゃあ、辞めるということのほうが先にあったんですね。出版社はお給料がいいイメージがあるのですが、辞めるときに不安になったりしなかったんですか?
加藤:不安というわけでもないんですが、どうやって生活費を稼ぐかは真剣に考えましたよ。たとえばお弁当屋さんを開くとかね。真剣に事業計画まで考えましたもん。『英語耳』のときと同じで、保守的に計算して(笑)それで、なんとかギリギリ月に30万円は稼げると計算できたので、会社を辞めることにしました。
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