朝日新聞が進めるデジタルファーストの要諦 ウェブの台頭で報道の現場はどう変わったか
「紙とデジタルの両立をはかる編集体制の再構築に着手したのは、ほんの2年前のことです。体制の刷新にあたっては、ドイツのアクセル・シュプリンガー社をはじめ数カ国のメディアを視察するなど、海外の知見を取り入れながら取り組んでいます」(東京本社編集局長代理・佐野哲夫さん)
具体的には、デスクや記者、エンジニアを同じユニット内に配置した統合編集局を編成し、これまでの紙を基点とした体制から、ウェブも主軸に加えた体制にシフトしたと佐野さんは語ります。
「例えば、従来であれば新聞の現場のスケジュールは、紙面データを印刷工場に送る降版のタイミングに左右されていました。朝刊に間に合わせるためには、何時の降版までに記事をまとめなければならない、と締切が決まっています。一方、インターネットでは、読者に求められている時間にニュースを提供できます。そこで、朝日新聞デジタルがよく読まれる時間帯を分析し、そこに合わせてより多くの記事を提供できるように、ワークフローとコンテンツ、両面からの改革を行っています」
その1つが、記事発信のタイミング。朝日新聞デジタルのアクセス数を時間帯別にチェックしてみると、興味深い傾向がわかります。アクセスが集中するピークは1日に4回。朝の通勤時間帯、昼休み、夕方の帰宅時間帯、就寝前の22時台。同メディアがいかにビジネスパーソンを中心に読まれているかが浮き彫りになっていると言えるでしょう。
「読まれるコンテンツ、読まれる時間帯を意識し、紙面、デジタルの媒体の特性にあわせて、活きのいいネタ、深い解説記事を戦略的に発信していく必要があります。新聞作りに最適化してきたワークフローを改める狙いはそこにあります」
編集長を中心に編集局のレイアウト変更も
こうしたデジタルファーストへの取り組みに合わせて、編集局があるフロアのレイアウトも変更。現在は、編集長を中心に、紙のデスク、ウェブのデスクがすぐ横を固める布陣を取っています。これにより、今どのようなニュースを扱い、どのタイミングで発信しようとしているのか、紙とウェブの大別なく、社内の動きがスムーズに共有できるようになったと佐野さんは言います。
「これまでは編集長と編集メンバーの席は別室に分かれていて、効率的な意思の疎通が図れない局面がたびたびありました。現在は編集長、紙面、ウェブのいわば三位一体の体制で、飛び込んできたニュースのセレクトや扱い方について、1カ所で意思決定できるようになり、速報の発信などにも対応しやすくなっています」