日本のブルー・オーシャン戦略 10年続く優位性を築く 安部義彦/池上重輔著 ~新市場をどう創造するか、その戦略を事例豊富に提示
世界的な景気後退のなか、従来の競争(レッド・オーシャン)戦略に限界性があることがますます明らかになっている。その結果、誰もまだ気づいていない新しい需要を創造することで、競争が存在しない市場を創り出す「ブルー・オーシャン戦略」の魅力がさらに増している。
「ブルー・オーシャン戦略」は、3年前にINSEAD(欧州経営大学院)のチャン・キム教授らによって提唱された戦略論であり、その著書の訳書『ブルー・オーシャン戦略』(ランダムハウス講談社)はかつて本欄でも取り上げられた。
その戦略は世界の多くの企業で導入され、成功を収めていることからも、その実効性が保証されつつある。何よりも、この戦略の本質を理解したうえで、そのツールやコンセプトを使いこなせば、どのような組織でもこの戦略を実践でき、一定の成果を上げられることが、大きな魅力となっている。
本書は、前述の原著の日本版ともいえる。日本企業の事例を数多く取り入れたことで、よりわかりやすい内容となっている。特に冒頭の任天堂のWiiのケースなどは、身近でタイムリーな事例といえよう。
本書はまた、著者の一人がチャン・キム教授に直接師事しており、この戦略の本質について教えを受けていることから、ややもすれば誤解されやすいこの戦略を、かみくだいて正しく説明していることも、特徴の一つだ。
特にキーワードなどの訳語は原著の翻訳以上に洗練されており、違和感がない。また「ブルー・オーシャン戦略」の理解の前提となるレッド・オーシャン戦略について、従来からの競争戦略としてその説明と比較にかなり力を入れている点も、理解のうえで手助けになる。
本書から学べる戦略のポイントは多い。中でも見落とせないのは、この戦略がコストを下げながら顧客にとってのバリューを高めるものであり、その実践には一連のプロセスすべてが大切だということだ。またノン・カスタマー(非顧客層)をどのように定義するかが重要なこと、さらにはキーコンセプトのティッピング・ポイント・リーダーシップやフェア・プロセス等、最後は人や組織に関わる部分が大切なことも見逃せない。
ただし、ここでの日本企業の事例で誤解してはならないのは、本書で紹介されているものが必ずしも体系化された「ブルー・オーシャン戦略」に当てはまるとは限らないことだ。事例の多くは、この戦略の一部に当てはまっているにすぎず、厳密な意味でこの戦略を導入しているといっていい日本企業は、まだまだ少ないとみられる。
あべ・よしひこ
価値革新機構社長。京都大学工学部,経済学部卒。INSEAD(欧州経営大学院)MBA。在学中にW.チャン・キム教授に師事。ボストンコンサルティンググループなどを経る。
いけがみ・じゅうすけ
早稲田大学大学院准教授。早大学商学部卒。英国ケンブリッジ大学、英国ケント大学、英国シェフィールド大学の各大学院でMBAないし修士。ボストンコンサルティンググループなどを経る。
ファーストプレス 2310円 271ページ
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