アメリカ中間選挙後は市場の動揺が頻発する トランプと議会の対決で内外のリスクが上昇

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中間選挙でいずれの政党が勝利したとしても、アメリカ経済のリスクを高めるのはトランプ政権の通商政策だ。前述のとおり、仮に民主党が下院または上下両院を握った場合、議会は膠着状態に陥って、重要法案などは可決できないことから、トランプ大統領が強硬な通商政策を発動するリスクは高まる。特に議会で自らの調査や弾劾手続きなどが進展すれば、ほかのことに国民の注目をそらすためにも、自らの裁量で実行できる強硬な通商政策に注力することが考えられる。

2018年10月、米通商代表部(USTR)が貿易促進権限(TPA)法に基づき、EU(欧州連合)、日本、英国との貿易交渉開始の意思を議会に通知した。トランプ政権はこれまでの韓国やNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉と同様に、EUや日本に対しても、1962年通商拡大法232条に基づき、自動車・部品などに追加関税を発動するといった脅しを武器に、譲歩を引き出そうとすることが予想される。だが、特に強硬策が見込まれるのは中国に対してだ。

なお、すでにカナダ、メキシコと合意しているUSMCA(NAFTA新協定)の議会批准は、民主党が下院または上下両院を奪還した場合、より困難になる見通しだ。民主党はトランプ政権に対しUSMCAの一部修正を要請するも、廃案となれば民主党がアメリカ経済悪化の責任を問われるのをおそれて、最終的には議会批准に応じるだろう。

ただし、議会批准の遅れが長期化した場合に懸念されるのが、トランプ大統領が現行NAFTAからの離脱をカナダとメキシコに通知することだ。それによって、議会は、北米地域の貿易協定が存在しない状態に陥るか、それとも政権が合意したUSMCAの批准か、どちらかを選択することを迫られる。離脱通知によって市場は混乱に陥るリスクがある。

中間選挙後は政治の混沌が新たな懸念材料に

以下、3つのシナリオで起きることを表にまとめてみた。

これまでのところ、アメリカの企業業績は好調であるものの、株式市場は激しく上下し不安定な状態が続いている。FRB(米国連邦準備制度理事会)による政策金利引き上げ以外に、トランプ政権の強硬な通商政策への懸念が投資家心理に影響を及ぼしている。同政権が導入した大型減税や財政支出拡大による景気浮揚効果は、来年にかけて徐々に薄れていく中、中間選挙後は、アメリカ政治の混沌が新たな不安材料となりかねない。

中間選挙はトランプ大統領の過去2年間の信任投票となるが、その結果は政権1期目の後半2年の政策を方向づけ、アメリカ経済の行方を占ううえでも極めて重要である。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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