あっけなく貧困に落ちる日本人の危うい立場 新築の家、新車、大卒、資格は本当に必要か

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阿部:奨学金については、無利子だったらいい、給付型だったらいいっていう議論もありますけれど、そもそも、自分のお金でも、国のお金でも、投資しただけの見返りが回収できないのに4年間大学行く意味があるのか、って私はすごく思うんです。でも、それを言うと、貧困者の敵みたいになってしまいます。だって彼らにとっては、大学に行けるという夢があるとないのは大きな違いですから……。

奨学金制度と進路指導の先生

鈴木:じゃ、そこは僕が悪者になります。おかしいんです、奨学金制度。だって、日本人のうち、あるいは日本の産業の中で大学教育が必要なのはいったい何%だろう、って考えたら大学全入時代なんて状況自体、変なんです。必要がない人たちにそれを押し付けているから、そんな高い進学率になる。単なる押し売りなんです。

ところが、子どもの貧困問題が国会の議論の対象になる。そして、対策法ができるっていう、すごく理想的な流れの中で何が台頭したかといったら、教育で儲けようという人たちが、わーっとそこに寄り集まってきた感じがある。

「勉強じゃなくて、私に必要なのは就職先です」という子たちがたくさんいるはずなんです。そういう子たちに関しては、できればローティーンのところから適性を判断して、ハイティーンになる頃にはちゃんとそれで生きていけるよ、っていうような適切な就業先へのマッチング作業が必要だと思うんです。

たとえば高校の進路指導の先生いますよね。「おまえ、こういうのが好きなんだったら、こういう勉強をしてみれば?」とか適当なことを言って、「とりあえず大学で視野を広げることだな」と受験を勧める。あるいは、専門学校を勧める。資格を勧める。

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でも、進路指導の現場にいる先生たちの中で、大学卒業後に一般企業に就職して働いたことのある人がどれだけいるんでしょうか? 大学を出てストレートに教師になったとしたら、それが公立の公務員教師だとしたら、一般企業の感覚がまったくわからない。ある生徒を取材したときに「進路の先生、中高時代はバイト禁止だったって」という話を聞いたことがあります。

確かに高校教員というのは専科制なので、数学だったら数学だけできればいい、国語だったら国語だけやってればいい。そんな人たちが、学校以外の社会での就労経験なくして教員になり、どうして進路指導ができるんだろうと疑問が湧きます。

進路指導は資格職であるほうが望ましいと個人的には考えています。なんて思っていたら、最近は進路アドバイザーなんて資格がまた資格取得ビジネスになっているらしい。その動きはまあまあ評価できるとしても、やっぱりそこにもビジネスなんだと思うと、なんだかもう真っ暗な気分になるんです。

鈴木 大介 ルポライター

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すずき だいすけ / Daisuke Suzuki

1973年、千葉県生まれ。「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会や触法少年少女ら の生きる現場を中心とした取材活動 を続けるルポライター。近著に『脳が壊れた』(新潮新書・2016年6月17日刊行)、『最貧困女子』(幻冬舎)『老人喰い』(ちくま新書)など多数。現在、『モーニング&週刊Dモーニング』(講談社)で連載中の「ギャングース」で原作担当。

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阿部 彩 社会政策学者、首都大学東京教授

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あべ あや / Aya Abe

マサチューセッツ工科大学卒業。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士号・博士号取得。国際連合、国立社会保障人口問題研究所などを経て2015年より現職。著書に『子どもの貧困』『子どもの貧困Ⅱ』(岩波新書)など。

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