「計画運休」定着と福知山線脱線事故現場の今 その後のJR西日本は「安全最優先」となったか

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では、JR西は淺野氏ら遺族が願うように、真に事故を反省し、安全最優先の企業に生まれ変わったと言えるだろうか。理念やスローガンを唱えるだけではなく、実効性ある取り組みが行われているのだろうか。

関西圏で定着しつつある「計画運休」

まずはポジティブな面を見てみよう。近年のJR西の安全への取り組みで、特に注目されているのが「計画運休」だ。台風や豪雨など大規模な災害が予想される場合、特定の区間や路線だけでなく広域にわたって、事前に全面運休を決める。首都圏では先月末の台風24号でJR東日本が初めて実施したが、関西圏ではJR西がすでに3回行っており、私鉄各社も追随して定着しつつある。

JR西が初めて計画運休に踏み切ったのは2014年10月。京阪神の都市圏を中心に近畿2府4県の24路線で実施した。ところが、この時は予想に反して台風の勢力が弱まり、「空振り」に終わる。3連休最終日の夕方以降で、影響人員は多くなかったものの、私鉄各社は通常運行しており、「なぜ動かないんだ」と苦情が多く寄せられた。

だが翌2015年7月の台風では、勢力や予想進路から計画運休を見送ったところ、想定を超す雨のために連続雨量が規制値に達し、東海道線の山崎駅(京都府)付近で新快速列車が約4時間も立ち往生。深夜から未明にかけて乗客約1600人が閉じ込められ、体調不良で救急搬送される乗客が19人にものぼった。JR西は「24時間雨量による規制を導入したばかりだが、見通しが甘かった」と会見で謝罪。規制値に達する前に間引き運転や計画運休を検討し、早めに対処していく方針を決めた。

こうした経緯を踏まえ、今年9月には、台風21号(4日)と台風24号(30日)で計画運休を2回実施した。特に近畿全域に大きな被害をもたらした21号では、「午前10時までに在来線全線で運休」「以後、終日運転見合わせの可能性」と前日の午前中に発表し、今度は私鉄5社もこれに続いて運休や特急の運転取りやめを決めた。このため当日は朝から多くの企業や学校が休業・休校とし、商業施設も臨時休業が相次いだが、大きな混乱は起きなかった。JR西管内では、京都駅の天井ガラスが暴風で落下したり、飛来物で架線が損傷したりする被害が出たため、安全を優先した早い判断が高く評価されることになった。

JR西の推計によれば、台風21号の計画運休による影響人数は4日が約75万人、5日が約120万人。また、9月1日から14日までの鉄道事業の収入概況(速報値)は、前年比で1.3%減となったが、来島達夫社長は「自然の猛威に対してお客様の安全を守れたことは是としたい」と会見で語った。

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