アメリカは為替でも中国に特別の敵意を示す 「為替報告書」の中の中国・日本・ドイツの扱い
これに加えて今回は、「為替政策の慣行に厳密な監視をすべく、中国は引き続きリストへの掲載が正当化される」、「財務省としては人民元の下落を懸念しており、今後6カ月、中国人民銀行との協議を含め再審査していく」と記述されている。その後、3900億ドル(今年6月までの1年間)にのぼる貿易黒字への批判が続くが、やはり今年6月以降の人民元の下落について相当腹に据えかねる部分があるのだろう。
元安は中国のファンダメンタルズを反映しているだけという言い分もあろうが、ちょうどトランプ政権が通商法301条を根拠に知的財産権侵害を理由とする追加関税を発表した6月半ばから人民元が急落しているという状況証拠があるため、通貨政策の恣意性を完全に否定するのも難しい。おおむね7~9月には元安に応じてドル高が進んでいたようにも見えるので、元安が米中貿易戦争のカードとして使われたとの思いをアメリカ財務省が抱いても不思議ではない。
「円が割安」との認識も継続している
なお、これまで懸案とされてきた円についての「実質実効為替相場(REER)は20年平均に照らして25%近く安い」との記述は今回見られない。ユーロに対して「20年平均に関して言えば、実質実効ベースで1%安く、対ドルで4%安い」との記述があることを思えば、より大きな下方乖離が放置されたままの円に対する記述が削られていることには違和感を覚える。
だが、米国が円に対する割安認識を変えたという話にはなるまい。というのも、報告書冒頭の「Foreign Exchange Markets」の項においてはIMF(国際通貨基金)分析を引用してドルが実質実効ベースで過大評価となっていることが指摘されており、「米国の主要貿易相手国のREERは既存の不均衡(pre-existing misalignments)を調整する方向にはおおむね動いていない」と明記されている(なお、類似の記述は前回4月の報告書にもあった)。
「既存の不均衡」という意味で円が大幅な割安通貨であることは論を待たず、これは過去1年間でまったく変わっていない。8月時点で円のREERは過去20年平均対比で約20%割安である。
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