アメリカは為替でも中国に特別の敵意を示す 「為替報告書」の中の中国・日本・ドイツの扱い

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ちなみに「Foreign Exchange Markets」の項ではユーロ相場に関し、対トルコリラや対東欧通貨に対する大幅上昇によって、実効ベースでの通貨上昇が進んでいるとの事実も認められている。この点は過去に筆者も議論してきたものであり、ECB政策理事会の関心事項にもなっている。実際、ユーロドル相場の軟調な印象とは裏腹に、2018年に入ってからユーロ相場は名目・実質共に実効ベースで上昇が続いている。

とはいえ、対ドルでユーロ安が進み世界最大の経常黒字を稼いでいる以上、トランプ政権のスコープからユーロ圏やドイツが外れることはない。実際、国・地域別の記述に目をやれば、ユーロ圏やドイツに対してはかなり率直さが見られた。報告書では域内の成長率にばらつきがあることが指摘された上で、これにより一部の強国(代表はドイツ)にとってユーロが過小評価になっていると指摘されている。

なお、為替政策報告書では所々、IMFの『External Sector Report』の分析が引用されているが、ドイツに関しては「IMFの推計によればドイツの対外ポジションはファンダメンタルズから示唆されるよりも大分強く、REERも10~20%割安とされている』との指摘がある。

ユーロ圏にあるかぎり無敵のドイツ

2018年版の『External Sector Report』(対外不均衡報告書)ではドイツの適正な経常黒字をGDP比5.0%程度と示しているが、実際は8.0%もあり、総合評価(Overall Assessment)は対外不均衡が「Substantially Stronger」(実質的に強くなっている)とされている。このドイツの動きに引きずられる格好で、ユーロ圏全体も経常黒字が増加していることから、総合評価が「Broadly Consistent」(おおむね一貫している)から「Moderately Stronger」(そこそこ強くなっている)へと引き上げられている。これはIMFとしては初の判断であることも為替政策報告書では指摘されている。

しかし、周知の通り、ドイツの強さはユーロ圏の構造的な欠陥による部分も多分にあるため、すべてがドイツの責に帰するわけでもない。この点は報告書でも「ドイツが自身の金融政策を執行しているわけでもなく、(外需だけではなく)国内の力強い雇用回復が実現していることも認識しているが……」という一文にも現れている。「そうであっても世界第4の経済大国としてグローバルインバランスの解消に寄与する責任がある」というのが報告書の論調だが、やや苦しさはぬぐえない。

絶好調の国内経済と不作為の通貨安というのは批判する側からすれば死角がまったくない。通貨安はあくまでECB(欧州中央銀行)の判断の結果であり、当のドイツも引き締めを望んでいるのだから批判される筋合いはない。これまでのドイツは内需不足が指摘され、これが批判のネタに使われてきたものの、今や国内資産市場はバブルの様相であり、少なくとも雇用市場に改善の余地はほとんどない。

こうした状況では、米国がドイツにできる要求事項は、域内の所得移転を円滑にすべくユーロ圏共同債ないしユーロ圏財務省を設立せよ、という恒例かつ遠大な結論に帰着するしかない。今回の報告書は明らかにドイツに対して「攻めあぐねている」という印象がぬぐえず、ユーロ圏にあるかぎり、ドイツの無敵性が崩れることはないという印象が一段と強まった。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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