ソニーが「ノイズキャンセル」で狙う音響復活 20年ぶりにオーディオ機器事業が増収

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これに刺激されたのが、停滞していたヘッドホン市場だ。「消費者はスマホに同梱されているものではなく、せっかく買うならいい音で聞きたい、とお金をかけるようになった」(ソニーでヘッドホンの商品企画を担当する大庭寛氏)。調査会社のBCNによれば、完全ワイヤレスヘッドホンの平均単価は1万7000円。ヘッドホン市場全体の平均単価を見ると、2016年の2000円台から、倍の4000円台まで押し上げられた。

ソニーはブームの波にうまく乗った

この波に上手く乗ったのがソニーだ。エアーポッズが発売される1カ月以上前に、ワイヤレスヘッドホンの旗艦モデル「MDR-1000X」を投入。もともとは、頻繁に飛行機に乗るビジネスパーソンなどを狙い、飛行中の雑音を消して睡眠や仕事に集中できることを売りにしていた。

ソニーの「1000X」シリーズには、耳当ての外側を手で覆うと、外界の音が聞こえるようになる機能がある(撮影:今井康一)

だが、通勤中にスマホで動画やゲーム、「オーディブル」などの朗読コンテンツを楽しみたいという需要も拾った。さらに、飛行機や電車内でのアナウンスが流れたとき、耳当ての外側にあるタッチパネルを手で覆うだけで外界の音が聞こえるようになる機能も、その手軽さがウケた。

価格は税込み4万円超と、ちょうどボーズや米ビーツ・エレクトロニクス(アップル傘下)とも競合する価格帯だ。それでも、「店頭では圧倒的にソニーが人気」(都内の家電量販店店員)。

ソニーの「1000X」シリーズの最大のライバルとして、米ボーズも税込みで4万円近い価格のワイヤレスヘッドホンを展開する(写真:ボーズ)

今年8月末には、新開発した消音用ICチップを搭載し、街中の音など、より幅広い音域の雑音を取り除ける第3世代の新製品「WH-1000XM3」も発表(日本国内では10月6日に発売)。発売前から、欧州、アジアなど世界で注目を集めた。前出の商品企画担当・大庭氏は、「久々にヒット製品が出たといっても過言ではない」と語る。

ヒットが生まれた背景には、事業部内のモチベーションが上がったことも大きい。テレビやオーディオ機器の“再生請負人”として2012年から事業を率いる高木一郎専務は、就任当初の事業部の雰囲気をこう語る。「私が来たときのオーディオ部門は、エンジニアたちの間に何ともゆるい空気が蔓延していた。せっかくいい技術をもっているのに、生かす先がなかった」。当時はスマホで音楽を聴くのが主流になっていたが、ヘッドホンはあくまで付属品。ソニーも数千円台の安価な製品を広く展開していた。

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