日本にオバマが出ない理由 設計ミスの弁護士“大増産”計画

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日本にオバマが出ない理由 設計ミスの弁護士“大増産”計画

その日、たまたま乗り合わせた山手線でアフリカ系米国人が歓喜の声を上げていた。「歴史が変わった。白い車も黒い車も、エンジンは皆同じ。同じ車なんだ」。

米国民は人類の宿痾(しゅくあ)の一つ、人種差別を克服する勇気を示した。同時に、目を見張るのは、米国民を偉大な選択に導いたバラク・オバマ氏その人の鍛え抜かれた資質である。

オバマ氏はキャリアの第一歩を弁護士として踏み出した。大統領候補の座を争ったヒラリー・クリントン氏も、その夫のビル・クリントン元大統領も弁護士出身だ。米国の弁護士職とは、傑出した指導者を生み出す、輝かしい土壌なのだろうか。

そんな思いに駆られながら、足元に目をやると、いや応なく気づくのは彼我の“業界”の違いである。まず弁護士の数そのものがまるで違う。米国の104万人に対して、日本はわずか2・3万人。人口10万人当たりの密度は米国の20分の1だ。

米国ではロースクールを卒業し、州ごとに実施される資格試験をパスすれば弁護士になれる。合格率はおおむね75%。そこから膨大なライバルとの鎬(しのぎ)合いが開始される。

日本の司法試験はつい数年前まで合格率2%台、あらゆる国家試験の中の最難関だった。7~8年の浪人生活は当たり前。一心不乱の詰め込み型の受験勉強が強要され、合格してしまえば、少数ゆえの“”特権階級”を形成し、庶民との距離感がなかなか縮まらない--。

これではイカン、と小泉首相時代に着手されたのが「司法改革」だ。米国のロースクールに倣って法科大学院を設立し、毎年500人程度だった司法試験合格者数を2010年までに3000人(合格率7~8割)に拡大しようというものである。

ところが、新制度実施からまだ3年、早くも「改革」は混迷の度を深めている。今夏、改革支持派だった日本弁護士連合会が「法曹人口問題に関する緊急提言」を発表した。「理念は変えてはいない」(村山晃副会長)とはいうものの、「10年に3000人」という目標の見直しを求めたのだ。日弁連を動かしたのは若手弁護士たちの突き上げである。

弁護士もワーキングプア?

今年の司法試験の合格者は2065人。かつての500人に比べて4倍だから、需給関係は激変した。新人弁護士は「イソ弁」(居候弁護士=法律事務所による雇われ)にもなれず、名目上、法律事務所の軒先を借りる「ノキ弁」や、それさえかなわず、「連絡はケータイで」という「ケータイ弁」が続出している。「月収8万円のノキ弁がいる。弁護士会の会費3万円、資料代、交通費を払ったら何も残らない」(第二東京弁護士会所属の若手弁護士)。

かつては敬遠された国選弁護士に若手が積極的に登録し、争うように法律相談会を開いている。ユーザーにとっては“競争の成果”だが、見過ごせないのは、質の低下である。

日弁連幹部がはっきり言う。「二極化が進んでいる。もう一極の人はひどい」。質の低下を端的に示すのが、司法試験の合格率だ。法曹人口を拡大するため、合格基準は大甘になっているのに、今年の合格率は33%と去年の40%からさらに低下した。とりわけ法学部を卒業せず、法科大学院のみの受験者の合格率は22%。逆立ちしても「改革」が想定した「7~8割」に届かない。

最大の誤算は、入学者を鍛え抜いてくれるはずの法科大学院の機能不全だ。「改革」を受け、法学部がなかった大学までこぞって法科大学院を設立した。少子化時代に願ってもないチャンス。逆に、つくらなかったら“落ちこぼれ大学”の烙印を押されてしまう--。設立された法科大学院は74校、総定員5800人。

定員5800人なら、合格枠が3000人に広がっても、合格するのは5割強。「7~8割」の合格率が目標なら、そもそも、74校も認可したこと自体、設計ミスだ。

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