ようやく開場する「豊洲新市場」の3つの難題 総投資約6000億円、関係者からは不安の声

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こうした卸売市場にとって厳しい環境の中、国内最強のブランド力と伝統を誇ってきた築地市場が閉鎖され、豊洲市場へと変わる。確かに設備などハード面は広く、新しくなったが、それだけでは取扱量の減少に歯止めをかけ、新たな「豊洲ブランド」を築くのは難しいだろう。

拡大する海外市場の開拓を含めた国際戦略、アマゾンや楽天など国内外IT系企業とのアライアンス戦略、豊洲を世界へ発信するブランドマネジメント戦略など、都の公共事業の枠を超えた革新的な事業戦略がなければ、永遠に赤字を垂れ流し続けることになりかねない。

③ 築地再開発とどう両立するか

最後の難問は、観光拠点としての築地再開発と豊洲市場との両立だ。 

築地市場について都は、豊洲移転後すぐに解体工事に着手する予定。そして五輪が終わって環2本線トンネル開通後の2022~2023年度に再開発に向け着工したい考えだ。

「千客万来施設」との競合

問題は再開発の中身。都が設置した有識者会議が今年5月に報告書を発表したが、「戦略的な交通結節点の形成」「段階的な整備」「ブランド価値の再構築」など基本的な考え方をまとめただけ。具体的方針は都が今年度中に固めるとしている。

築地再開発を巡っては、小池知事が昨年6月に「食のテーマパーク」などに再開発すると言及。これに対し、豊洲市場の観光拠点として整備する「千客万来施設」の運営事業者「万葉倶楽部」が自社の計画と競合するとして猛反発した。

結局、都は築地再開発にあたって千客万来施設との両立や相乗効果に十分配慮するとともに、千客万来施設が2022年末にできるまでの間、都が豊洲のにぎわい創出に取り組むことで今年8月末に万葉倶楽部と合意。だが、知事の生煮え発言によるドタバタのおかげで、千客万来施設の整備は当初予定よりさらに大幅に遅れることになった。

築地市場の全景。立地は抜群、外国人旅行者も数多く訪れる(記者撮影)

しかも、両立がうまく行くかは不透明だ。「食のテーマパーク」という表現は撤回されたものの、再開発後の築地市場は既存の場外市場と合わせ、引き続き日本の食文化の発信基地、一大観光拠点としての発展が期待されている。豊洲市場の観光拠点との一定の競合は避けられないだろう。

築地市場は銀座から徒歩でも15分程度という好立地であり、地下鉄などのアクセスもいい。対する豊洲市場は現状、鉄道は新交通ゆりかもめの「市場前」駅があるのみ。東京メトロ有楽町線の延伸構想があるが、事業計画の策定はこれからだ。「築地に比べてやや辺鄙なところにある豊洲に人が集まるのか。人材採用の面でも心配だ」と大手卸会社幹部は語る。

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